【GNH】ゼロ年代終わりのブータンを旅行してきた。【その3】

機内食の暖かくて旨そうな匂いで目を覚ます。
あたりを見回すと、ほぼ全員が食べ終わっている。
いまから食べさせろと言うのもはばかられ、なんとなく窓の外に目をやる。

眼下にはどうみてもインド、という感じの湿った平地が広がる。
機内食の片付けが終わると高度を一気に下げ、あれよあれよと地面が近づく。

タッチダウン。

インド、バグドグラ空港である。
ネパール国境にほど近いこの空港は、3レターコードだとIXB。
軍民共用で、滑走路を挟んでターミナルの反対側にインド空軍のMiG-21がずらっと並ぶ。
写真は撮れない。

何人かのインド人が機を降りて行き、
そして何人かのインド人が空いた席に座る。

外ではインド人の地上作業員がけだるそうに給油作業。
およそ40分ほどそこでじっとしていただろうか。
給油を終えたドゥク・エアーのA319は滑走路端までタキシングしていき、
ぐるりと回頭するとそのまま速度を上げ、空に浮かんだ。

今度こそブータンへ。
離陸する前に食べそびれた機内食をオーダーしてみたが、
パロ空港まではほんの短いフライトだから悪いけど我慢してくれ、と言われる。

離陸して数十分、眼下はすべて山。

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▲どこまでも広がる山。ヒマラヤ山脈の成れの果てである。



機内アナウンスが流れる。
「機体の左側にヒマラヤの主脈が見えます。エベレストも、カンチェンジュンガも。」
自分は最後尾の右窓際である。
必死こいて左の窓を見ると、なんだか信じられない風景が広がっている。
NHKスペシャルとかで見るような、白くて黒くて大きくてあきれるほど高い山、山、山。
ちゃんと見られないのは悔しかったけど、まあ帰りの飛行機で見ればいいか、などと思い
ブータン入国のためのカードを書く。

間もなく着陸だというアナウンスとともに、フラップを全開にしたA319は
右に左に機体を旋回させ、山間を縫うように高度を下げて行く。
山に翼をぶつけるのではないかと思うようなタイトなアプローチ。
よく見ると、その山の中腹や崖の頂上に、小さな家が建っているのが分かる。

いつまで左右に機体を振っているのか不安になった頃、
ストンと着陸したのがブータン王国唯一の空港、パロ国際空港であった。

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▲もちろんタラップで機外に出る。標高は約2300m。外は涼しい。


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▲エプロンから滑走路まで真っ平らで灯火類なし。離発着のためのガイドやらもなし。有視界オンリーの男気あふれる空港。


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▲バゲッジクレームもクソも、一本のベルトコンベアしかない。



せっかくブータンに到着したので、
ここからはちょっとでも役立つ話を書いていこう。
地球の歩き方は、ちょっと書いてあることが高尚すぎる。

ブータンはインドと中国に挟まれた九州より小さな王国だ。
ネパールとは近いけれど、国境を接している訳ではない。
国土の北端は7000m峰が連なるヒマラヤ山脈の主脈からなっており、
南端は平地が広がり、暑くてインドと見分けがつかない的ゾーン。

パロやティンプーといった主要都市はその中間、だいたい標高2000〜3000mに位置する。
冷涼で、四季もはっきりしていて、気候は長野県とだいたい似たようなもん。

それ以上のいわゆる地理的データを知りたければ、Wikipediaを参照のこと。
歴史や文化については追って触れることにする。

通貨はヌルタム。インドルピーとの固定相場制で、だいたい1ヌルタム=2円。
空港で両替できる。レートはどこもほとんど変わらないので気にしなくて良い。
USドルも日本円も両替できるが、タイバーツは両替できない。
同行した9人のうち2名がバンコクでン万円分のタイバーツの札束を作っていたが、
ここで両替できないことを知り、以降バーツの札束を携えて旅行することになる。

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▲パロ国際空港全景。これがこの国唯一の空港であり、ブータンの玄関口となる。ド田舎。


ここでブータン旅行のお金的なシステムについて書いておかねばなるまい。

ブータンへ入国するにはDrukair(ロイヤルブータン航空)を利用するしかない。
(ちなみにこのサイトのオンラインチケットサービスは僕らが旅行に行っている最中にスタートした。
それまでは電話とかメールだったんだろうなぁ……。
僕らのEチケットは余裕で書き換えできちゃうWordファイルで届いた。ゆるい。
あ、トップページのCAさん見たことある。つーかこの数人しかいないんだろうな。)
陸路だとインドから入れるらしいが、ステイは不可能なんだとか。

Drukairの就航地はバンコク、ダッカ、カトマンズ、バグドグラ、カルカッタ、デリーなど。
日本から行くとすれば、時間的にも金額的にもバンコクがいちばん手っ取り早いっぽい。
もちろんブータン行きの格安航空券などはない。

ないどころか、自分でブータン旅行のアレンジをすることは不可能だ。
どういうことかというと、システム上、ブータンにはガイジンがふらりと入国できないのである。

現地の旅行代理店などを通して、
ガイド、ドライバー、宿泊地、食事、主要道の検問、入国出国の飛行機まで
すべて手配してもらい、なにもかもの申請をしてもらい、政府からOKが出たところで
ようやく旅行者に対してビザが発行される、と考えればいいだろう。

そして、ブータンへの滞在には一日200〜220ドルをあらかじめ払う必要がある。
実際のお金の流れについてはしっかりと調べていないからよくわからないのだが、
概念的に分かりやすく言うと、まずすべてのお金を一旦政府が預かって、
それから旅行会社、宿泊施設、レストランなどに分配されるシステムのようだ。

逆に言えば、旅行会社と相談して決めたプランならば、
テントに泊まろうが高級ホテルに泊まろうが、
馬で移動しようがデカいバスで移動しようが、
レストランでまずい飯が出てこようが、かかるお金は一緒。

なんと贅沢だろうか。この贅沢さ、伝わるだろうか。
そりゃ我々のような20代そこそこの旅行者なんぞ周りにいないワケだ。

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▲空港の外には旅行会社のスタッフがたくさんいて、到着した観光客を自社のバスに乗せて運んでいく。


ここでまとめると、
もし1週間のブータン旅行に行きたければ、概算だけど
「2万円×7日」+「パロ〜バンコク航空券」+「日本(成田)〜バンコク航空券」
というお金がかかる。ここで金額を削れるのは成田からバンコクまでの航空券と、ブータンでの滞在日数だ。
(現地でお金を使うシーンはあまりないが、お酒を飲んだりお土産を買ったりすると
もちろんお金がかかる。その相場はまたあとで。)

金と時間があって、英語ができないと入国できないド田舎テーマパーク、それがブータンなのだ。
(=いわゆるバックパッカーがぶらり入国できないようにしている、というのが本音だろう。
文化的理解力とある程度の経済力がない人間は来るな、というプチ鎖国なのだね。)

つづく
by kala-pattar | 2010-01-12 00:32 | 行ってきた