酩酊と昇降のミャンマー探訪【その1】

もはやきっかけがなんだったのか、覚えていない。
なんだか忘れたけど、せっせこ働いたり飲んだくれたりしているうちに旅行は決まっていて、
手配を任せていた後輩のおかげでほとんど気づかぬうちに出発日を迎えていた。
ギリギリまで残務を処理してオフィスを出た僕は、空腹を満たすためにひとり居酒屋に出向いた。

酩酊。

ぐらんぐらんする足もととともに羽田空港の国際線ターミナルにたどり着くと、果たしてAirAsiaのカウンターには誰もいなかった。
たまたまそこに来たスタッフとおぼしき日本人女性に声をかけると「これからクアラルンプールに飛ぶんじゃないですよね」と言われ、
そうだと答えると、僕に紙切れを渡しながら彼女は言った。

「いますぐ搭乗ゲートまで走ってください」と。

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▲A330だったかどうだか、もうフリートを調べる癖も、レジをメモる癖もどっかいった。


走ることなく両替を済ませ、搭乗ゲートにダラダラと向かい、9列のシートの真ん中に腰を据える。
定刻よりも15分早く離陸した飛行機は狭苦しく、騒がしく、寒かった。
そして幾度かのうたた寝と幾度かの怒り任せの覚醒を繰り返しているうちに、酔いは醒めた。

クアラルンプールは暑く、人熱れか太陽か、なんだかよくわからないエネルギーが満ちていた。

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▲貧乏人用のLCCT。KLIAまではバスで20分程度の移動が必要。費用は2.5マレーシアリンギット。


機内で飲み物を買っておつりをもらい、用意したマレーシアリンギットを運転手に支払い、国際線ターミナルへと移動する。
チェックインを済ませると1時間程度の猶予があったのでKFCに向かい、久しぶりのプアーな英語でモーニングセットを頼む。

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▲マレーシアで食べたKFCの味が忘れられなくて、つい足が向かってしまう。


メニューの写真でチキンに見えたものは、ハッシュドポテトだった。
惨めな気分でパンケーキをほおばり、コーヒーで流し込み、そして今度はマレーシア航空のエアバスに乗り込む。

ズルズルと高度を上げた機内でイミグレーションのカードを書き、そして2時間ばかりが経過すると
こんどは高度がズルズルと下がっていくのを感じる。

ヤンゴン空港。

イミグレーションは思っていたほど煩雑でもなければ厳しくもなく、
ただ手際があまり良くない印象だった。Webカメラのようなもので顔写真を撮られ、するりと入国。
まずはターミナルにある銀行カウンターにて80USDをミャンマーの通貨、チャットに両替する。

外に出るとKLよりも幾分カラリとした陽気で、ずっと我慢していたタバコに火を点けようとした。
すると大勢の客引きが近寄ってきて、タクシーか?タクシー乗るか?と声をかけてくる。
俺はタバコを吸おうとしてるだろう。
どこに灰皿があるんだと思いながら周りを見渡すが、そこら中に咥え煙草のタクシードライバーがいる。
「スモーキンヒアーオケー!タクシー!ウェアドゥーユーゴー?」と若いのがしつこいので、
「スーレーパゴダ。バット、アイワナスモーク!」と返す。
「スーレーパゴダ!オケー!インサイタクシー!ユースモークオケー!」とまくしたてられ、
値段を聞いて、タバコに火を点けながらおんぼろタクシーに乗り込む。

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▲ミャンマーは右側通行。圧倒的に日本車が多いので、ほとんど右ハンドル。すっげー危ない。


タクシー運転手とひととおりの会話をしながら窓の外を見ると、
同じくオンボロな日本車が行き交い、熱帯の樹々が道路の脇に茂り、汚れた建物が連なっている。

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▲天気がひたすら良くて、風が涼しい。もしかしたら気温はそんなに高くないのかもしれない。


ヤンゴンのダウンタウンにそびえるスーレーパゴダのふもとにたどりつくと、
僕は8000チャット(800円)を運転手に手渡し、待ち合わせたはずの後輩の姿を捜した。

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▲まあ、渋谷のTSUTAYAのようなもんです。多分。


さすがに待ち合わせ時刻をちょいと過ぎていて、門の前に後輩の姿はなかった。
しかしふと携帯のキャリア設定を変更することを思い出し、SMSが届いているのを確認した瞬間
仏塔の横に併設されたインターネットカフェの中から僕の名前を呼ぶ声がした。
後輩が「死んだかと思いましたよ」などと言いながら会計をすませてビニールののれんをくぐり、
僕らはヤンゴンの日差しのもとに立っていた。

ずっと現実味のなかった旅の実感のようなものが、ようやくここでわき上がってきた。
ここはヤンゴン、スーレーパゴダ。金色に輝くミャンマー最大の都市の歩道の上。

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▲スーレーパゴダ、いいところですね。



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by kala-pattar | 2012-10-30 00:40 | 行ってきた