【写真】カメラは「真実を写す機械」だと思っている人に言いたい4つのこと

Twitterで僕の写真を見た人から「けっこう加工してるんですね」みたいなリプライを貰ったので
(別にそれがdisなのか単なる感想なのか何なのかは知らない。とにかくまあ、そういう内容のリプライをもらった。)
ちょっと思うところがありダーッと連投したんですけど、前から書きたかったことなのでストックとしてまとめておこうと思います。

ちなみにいまから書くことは「写真を知っている人」からすれば当たり前のことなのかもしれないのですが、
世の中の99%以上の人が知らないんじゃないか、と思っているので、けっこう重要な話だと思います。(記事内の写真に意味はないぞ!)

【写真】カメラは「真実を写す機械」だと思っている人に言いたい4つのこと_b0029315_13214953.jpg

・「加工」の介在しない写真は存在しない

たとえばカメラで写真撮ったとしますよね。
いまならデジタルカメラの背面液晶に画像が出ます。あれがまあ、直感的には「撮ったままの写真」です。
スマホで写真を撮ったとしますよね。モニターに出てくる画像、あれも「撮ったままの写真」ですね。
じゃあ「撮ったまま」ってなんだ、と。

いまのデジタルカメラの写真って、カメラの中で信じられないくらい加工されてから生成される画像なんです。
レンズの歪み、センサーの癖、色、明るさ、そういうものをすべてコンピューターで処理してからデータ的に圧縮して
人間の目で見ることのできるカラーの画像に変換しているんです。

画像処理、圧縮する前の撮影データというのはホントに巨大で、扱うのがとても大変です。
(「RAWデータ」というのを聞いたことがあるかもしれないけど、アレです)
だからいまんところ世の中で一番流通してる写真データのフォーマットは「jpg」って拡張子の付いたアレになってます。
どんなプロセスでjpegというデータに変換するかというのはここでは触れませんが、
要は元のRAWデータを処理して変換して圧縮して手軽に扱えるようにしたもんです。
もちろんデータを圧縮してるんで画像としては劣化してます。ただ劣化と言ってもシロート目にはほとんどわかりません。
(圧縮率を上げまくると目に見えて劣化するけど、そこはmp3のビットレートが下がると音がモコモコシャキシャキになるのと同じ)

この辺のことは「RAWデータを扱おう」みたいなカメラオタクの読む本には書いてあるんだけど
そもそもjpgに慣れ親しんでいるはずのカメラ初心者や無意識にカメラを使っている人向けに書いてあることはごく稀です。
っていうかそういうメディアがないもんね。

(「そういうの難しくてわかんない!私は私の好きな写真が撮れればそれでいいもんね!」みたいな文化は滅べばいいと思っています
自分らしさとか言う前にカメラの原理原則仕組みを知ってそれをどう制御するかがわからなければ「自分」など介在しないも同然です)

さらに言ってしまうと、カメラにはいろんなボタンとかダイヤルがついてますよね?
それを押したり回したりするとカメラの設定が変わります。
焦点距離、絞り、シャッタースピード、そういうモロモロが写真の明るさやピントやモノの動きなどを決定します。
さらにデジタルなので色とか歪みとかそういうのまでめちゃめちゃいじれるようになっています。
そう、知らないうちにめちゃめちゃ「加工」してるんです。撮る段階で。それをまず知っておくべき。

「撮ったまま」のRAWデータを無理やりそのまま見ると、だいたいはモッサモサのフワッフワの色が浅くてゆるゆるな画像です。
これをある程度パッキリさせてシャッキリさせて「お、いい写真!」って感じに加工するコンピューターとかソフトを
カメラメーカーは頑張って作ってるし、それをいかに小さくしてカメラの中にブチ込むか日夜研究しているのです。

【写真】カメラは「真実を写す機械」だと思っている人に言いたい4つのこと_b0029315_13223534.jpg

・撮った後の加工の話

いわゆる2chまとめとかでよく見る「Photoshopの加工技術すごすぎwwww」みたいな記事ありますよね。
女の子の脚を伸ばしたり腰を削ったり肌のキメをツルツルにするのも「加工」です。
空の色を抜けるような青にするのも「加工」です。
黒く影に見えたところをぐっと暗くしてメリハリをつけるのも「加工」です。
SDカードの中のデジタルなデータを目に見える形で像に変換するのも「加工」です。

どれが良い「加工」で、どれが悪い「加工」でしょうか?

「世の中こんなに加工された画像で満ち溢れていたら、どれが真実かわからなくなるな!」
みたいなコメントもインターネットでよく目にしますけど、その「加工」は何を指した言葉なんでしょうか?

どこから先を「やってはいけないこと」と決めるかではないのです。
見せたい像は何か。そこに持って行くときに必要なことをする。写真というのは全部そうやって「作られるもの」なのです。
だから、「見たままをあるがままに写し取ったものこそ写真」だという認識は間違いです。
いわゆる「撮ったら撮りっぱなし」の人はどうも「加工」という言葉を忌避しますけど、それは全て程度の問題なのです。

そもそもカメラというのは肉眼という理想的な器官と比べればダメダメすぎる装置(できないこと多すぎ)だし、
モニターも紙も脳というデバイスに比べたら再現性低すぎるんです。でもなんとかして他の人に画を見せたい。
そこがむちゃくちゃ面白いから写真趣味という人が死ぬほどいるんだし、
「加工してる写真なんていやだ!ありのままを写した写真こそホンモノだ!」ともしあなたが言うなら、
そりゃもう肉眼で実物を見る以外ないんです。

こういうなんとなくの認識を産んだのって「写真」という字面だと思うんですよね。
「真実を写す」という言葉がウソなんです。
そうではなくて、目の前で起きている光学的な事象を二次元に一度化学や電子工学の力で写し取って、
それを撮影者の手によっていかに印象的なものに加工して他人に見せるかというプロセス。
これが「フォトグラフ」なのです。光の画。光画。画なんです。真実じゃない。ホンモノじゃない。

(写真にしか出来ない表現ってのもあるよね。星が空を動いているさまを写すとか、
肉眼じゃ見えないくらい真っ暗なところでスゴい感度で動物を撮るとか、そういうのは「見たまま」ではないよね。)

【写真】カメラは「真実を写す機械」だと思っている人に言いたい4つのこと_b0029315_13223572.jpg

・デジタルカメラだから加工ができるんだ!フィルム時代はそんなことなかったんでしょ?という人へ

昔フィルムをDPE屋さんに出して現像とプリントがされて上がってきた紙焼きを見たことがあると思います。
あれも写真屋のおっちゃんかおばちゃんか、そこにある機械が全部「いい感じ」に調整してくれたものです。
決して僕らがあんなに「いい感じの写真」を撮れたわけではないのです。

部分的に明るくしたり、部分的に暗くしたり、色を浅くしたり鮮やかにしたり、シャープにしたりボヤッとさせたり
フィルム時代だってなんでもできたんです。その名残がPhotoshopのツール類にそのまま残ってるんです。
あれ、フィルム時代にやってた加工をデジタルでもできるようにしたアプリケーションであって、
「デジタルだからこんなこともできる!」というのはホント最近追加された機能だと思っていいはずです。

【写真】カメラは「真実を写す機械」だと思っている人に言いたい4つのこと_b0029315_13223514.jpg

・写真をプリントするというのも「加工」の一種だ

いまどきのプリンターってSDカード直接入れればそのままニューって写真が印刷されたり、
無線LANとかBluetoothとかでもぴゃーって転送して印刷できたりするじゃないですか。
「撮ったまんま、そのまま印刷されてる」って思うじゃないですか。

そんなことないんですよ。

まずデジカメの画像の縦横比率って機種によって3:2だったり4:3だったりするんすよ。
じゃあそこの写真用紙、3:2ですか?4:3ですか?
そう、まずサイズを合わせなきゃいけない。これってあんまり意識したことないはず。

モニターはRGB(赤緑青)の光ですべての色を再現していますよね?
でもプリンターに入れるインクって「CMYK(青、赤、黄、黒、プラスα)」ですよね?
どうやってRGBで記録されたものをCMYKで再現するのか、これもたぶん殆どの人は意識したことがない。はず。

そう。撮ったままの写真(画像データ)っていうのははそのまま印刷データになんかならないし、
写真というのは印刷までにものすげーたくさんの「加工」が必要なのです。
ご家庭のプリンターはそれを気づかないうちにめちゃめちゃ勝手にいい感じにやってくれてるんです。

なので、もし自分で「この色、この画面をこうやって見せたいんだ!」ということにこだわるなら、
そのプロセスの全部を自分で管理する必要があるんです。
商業印刷に従事してる人とかプロフォトグラファーはそれをやってる。

今回写真集を作るにあたって、
僕はRAWデータから現像の過程で明るさ、色、コントラスト、彩度、傾き、歪みといったあらゆるパラメーターをいじり倒して、
2:3のデータを適切な縦横比にトリミングして、適切なサイズに変更して、そのサイズに応じたシャープネスをかけてCMYKに変換して、
さらにそこで色に変化が生じたりしたところをもう一度調整しなおしたり部分的に明るくしたり暗くしたり白く飛ばしたり黒く潰したりしてます。
当然、あまり書きたくないけどそれ以外の「加工」もめちゃくちゃしています。
空は青い方がいいし、夜空は黒い方がいいし、木は緑色の方がいいし、火は赤い方がいいし、畳と女房は新しい方がいい。
けどカメラはそんなに頭良くないしそれなら自分で撮ったあとにガリガリいじるしかないんですよ。

つまり、多かれ少なかれ写真というのは加工しないと目に見えるもの、他人に見せるものにならないんですよ。

「写真」という言葉は、「何か大げさな真実をコピーする装置」みたいに見えちゃうんだけど、
じつは「景色とか人物とかを肉眼で見た撮影者の怨念とか執念とか感動みたいなもん」を、
紙とかモニターというデバイスによって他人に伝えるための通信手段(プロセス)みたいなもんだと考えた方がいいんじゃないすかね。
「俺にはこう見えたんだから"そういう画像"を作ったし、それをあなた達に見てもらいたい」ということですよ。
劣化して当たり前、だからこそ加工して当たり前。それで良くもなるし、悪くもなる。写真って楽しい。

【写真】カメラは「真実を写す機械」だと思っている人に言いたい4つのこと_b0029315_13223583.jpg


そんなこんな、たくさん書くきっかけになったのは、自分が写真集を作ってみたからなのです。
写真を撮る、見る、楽しい。その先に印刷してパラパラめくって眺めて凝視してコーヒー飲んで楽しい。そういうのがあります。
ではでは。

追記/もちろん、画像を扱う人、写真を撮る人が悪意を以て加工をするならば、それは「悪い加工」ですよ。それは分かってます。

追記2/「写真は撮る人の意図でいくらでも味付けできる事かと思ったら違った」ってブコメあったけど、まさにその通りで。
ここに書いているのは「撮影者の意図」というのが介在しない写真など写真じゃねえし、
そのためだったら撮った後からでもいじるのが当たり前でいいと思うよ?ということを「加工」という観点がそもそも無い人に説明してます。
iPhotoやPhotoshopといった画像編集ソフトを手足のように使っている人間からするとちょっと想像しにくいのだけど、
やっぱり写真を撮りっぱなしでそのままSDカードやHDDの中に閉じ込めておく人ってものすごくたくさんいるんだよね。
でも写真が真に楽しいのはその先のプロセスだぜ、っていうのを書くための前提としてこういうエントリをUPしました。

追記3/決定的瞬間を最高の構図で切り取った写真が最高なのはあたりまえだけど、
そういう写真でも他人に見せるには加工が不可欠だし、つまりそういうものも「無加工」ではあり得ないってことです。
人それぞれだし、「それを差し引いてしか写真を評価することはしないね」という姿勢は存在してもいいけど
大多数の人が最終的に「見る」というところでどんな画像なのか、しか気にしていないわけですよ。



by kala-pattar | 2014-02-03 13:13 | カメラ