それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?

それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22394484.jpg


いやはや、とんでもない問題作が発売されました。
「プラモデルってなんだろう」という問いに、あくまで工学的に、真っ向勝負を仕掛けてくるニクい奴、

まず親に向かって何だそのスケールは。1/2って。半分ですよ。実物の半分。事実上何も縮んでないし、ホンモノの大きさ知らんし。
そこを許したとしても、このプロダクト然とした、あくまでプラスチッキーなBB-8というメカをプラモデルという方法で再現する。そんなバカがあるか、と。
鉄や木やガンダリウム合金ならまだしも、あのスター・ウォーズに出てきたドロイドをプラスチックで、1/2で再現する。
プラモデル的な切る貼る削る塗るというお作法を全部無視して、ドーンとそこにある、樹脂っぽい質感のロボットの復元模型。
それを、我々が組む理由。これはもう、BB-8というキャラクターグッズが欲しい人にしか、刺さらない。
しかしここは超音速備忘録ですから、何がどう分割されて、どう復元されているのか、それを記録し、広く伝えなければならないのです。



それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22464643.jpg
▲例によってランナーです。頭部のパーツの裏側。ランナーやダボの大きさから「あ、これはアカン大きさのやつだな」というのが伝わってきます。


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22473515.jpg
▲巨大なパーツですが、実物のパネルラインに合わせて分割されています。ガンダムのように「プラモ的都合」ではなく、あくまで実物に合わせたライン。


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22483696.jpg
▲この場合の実物とは何でしょうか。プロップでしょうか。あの映画の世界の中の何か、なのでしょうか。


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22491110.jpg
▲巨大なパーツを見ていると、これこそが実物で、これが画面の奥で動いていたのではないかという錯覚が生じます。


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22494691.jpg
▲しかし、銀のパーツの表面に走るウェルド(プラスチックが冷え固まる過程で生じるマーブル模様)を見ると、これが模型であることに気づきます。


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22502989.jpg
▲笑ってしまうくらいに大きく、同じようなカタチをしたパーツが大量に入っております。


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22511922.jpg
▲同じようなカタチのパーツが寄せ集まったランナーは、幾何学的にランナーフェチの脳髄を揺さぶります。


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22522575.jpg
▲突如クリアーブルーの細かなエフェクトパーツが発見されるかと思えば


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22525192.jpg
▲ひたすらに色分けを再現するためだけに設計されたパーツが出現し


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22531629.jpg
▲黒いパーツは円を描くために4分割され


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22534304.jpg
▲クリアーブラックのパーツはハコの中で傷つけられないよう白い壁に護られており


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22541259.jpg
▲赤いクリアーパーツは細部の色分けのために存在します。


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22545025.jpg
▲硬質で黒い成型色の微細なディテールが入ったパーツが有ったかと思えば


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22551693.jpg
▲軟質で白いアンテナ用のパーツ(7番はマジで折れやすいので予備が入ってました)があり


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22555093.jpg
▲丸いメカなのにこういう地獄みたいな形状のパーツが突如として現れたりして


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22562453.jpg
▲シルバーのパーツも球体を予見される分割で鎮座しております。


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22565368.jpg
▲とにかくひとつひとつのパーツが巨大で、同じようなカタチをしており、それぞれが全部違うというスター・ウォーズ的な悪夢が展開します。


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_22575212.jpg
▲透明パーツの台座に入れられたSTAR WARSのエンブレムにうっとりしましょう。約束ですよ。



とにもかくにもプラモデルらしからぬ巨大なパーツの集合体を目の当たりにしたアナタは、きっと気づくはずです。
それらはなんの変哲もない、上下に噛み合う金型によって作り出されたプラスチックの塊にすぎないことを。

もっと言ってしまうと、このプラモデル、あの球体とそれよりも少し小さな半球が組み合わさったメカを
プラスチックで、しかもトリッキーなことをいっさいやらずに組み立てられるように設計されたものにすぎないのです。

まだわかりづらいかもしれません。

プラモデルで球体を組み立てるには、それを最低でも半球に分割しなければいけません。
しかし、バンダイのプラモデルですから、そこに色分けや分割線の処理を不要にするパーツ割りが必要になってきます。
つまるところ、「球体を再現しつつ、各部の色や実物(?)のパネルラインに合わせた分割線」を考慮して、パーツを設計することになります。
さらに、どのパネルがどこに来るかを間違えないよう、実物どおりに組み立てられる必要がある。ユーザーが接着剤を使わずに、間違えないで組める設計が求められます。


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_23042570.jpg
▲そうすると、こういう奇っ怪な、様々な形状のダボが所定の位置に設けられた、「芯」になるフレームが出現するのです。


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_23045959.jpg
▲色分けを再現するために色とりどりのパーツを組み合わせ


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_23052327.jpg
▲内部に入る細かいパーツを組み立てることもありながら


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_23060570.jpg
▲あらゆる場所に間違えないよう設けられた異なる形状のダボにパーツをハメることで、巨大な球体が出来上がっていきます。


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_23072721.jpg
▲実物の構造的な問題をすべてさておき、形状と色彩を再現するためだけに、実物の半分の大きさの何かを組むという、極めて奇妙な体験。



この太陽を盗んだ男に出てくる爆弾みたいなプロダクトがいったいなんなのか。
とにかく、組んでみればわかります。
こんな奇妙な体験は、プラモデルという世界に限れば、他にないかもしれません。

1/2って、「実物の半分」と考えればずいぶん小さいかもしれませんが、スケール表記として考えれば極めて大きい。
で、それをがんばってユーザーが再現するために、メーカーが死ぬほど頑張って分割し、間違って組めないようにダボの形状を設計する。
フールプルーフ(ユーザーの誤認や誤った行動を回避するための設計)の塊です。
ぶっちゃけ、ボールを作ってから工場で塗装したほうが、安くなるんじゃないでしょうか。

ユーザーの創意工夫が入り込む余地は「組み立ての過程」にはおそらくありません。
組んだ後に、ウェザリングするとか、そういうのは「できる人」に残された創意工夫の余地なのかもしれませんけども、
しかし「大きなBB-8のフィギュア」を自分で組むという体験のために、コストがかけられている。
これはもう、突拍子もない技術じゃなくて、球体を分割するための思考であり、それを実現するための根性です。
特別なテクニックが使われているのではなく、ひたすらにアイディアの勝利。
BB-8をプラモデルとして実現せねばならん、と思ったら、そのために必要なのは、分割して、組めるように設計する、思考力です。

プラモデルを組む人は、やはり自分で組むことでしか満たされない欲求のために、プラモデルを買うのだ、という思念がこのプラモデルには詰まっています。
おもちゃでいいじゃん。完成品でいいじゃん。風船でも、ラジコンでも、いいじゃん。
そういう気持ちに抗いたい人たちが、プラモデルにすがるんだとしたら、このBB-8はプラモデルとして極めて本質的な「組まれる」ということに特化しています。
そこに、BB-8というメカの内部的な構造や「手軽に入手できる雰囲気」とかは盛り込まれていないかわりに、
組み立てるという体験がただ厳然と存在している。けっこう衝撃的です。

「ただひたすら組まれるために、組めるように作られたプラモデル」というのがどんなもんか。
これは組まないとわからないと思います。あとめっちゃデカい。


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_23200710.jpg
▲別売りの電飾キットも突っ込んで、バシーっと光るBB-8が完成しました。塗ってない。組んだだけ。


それでもまだ、バンダイのプラモデルが技術力で作られていると信じますか?_b0029315_23205335.jpg
▲恐ろしいプラモデルです。我々は、どうしてプラモデルが好きなのか?というのを考えるために、一度は組んでみてください。ぜひ。




追記/そこそこ読解力のある人達から「いや、これを実現しているのは技術力でしょう」というコメントが来たりしています。
おっしゃるとおり、これはもちろん一定の「技術力」がなければできないプロダクトであります。
それはわかっていますが、超絶設計ではあるものの、そこにあるのは"変態技術"でも"超絶技術"でもなく、
きわめてノーマルなプラモデルの製造技術に則ったプロダクトであるからして、
面白いものが発売されるとすぐに「出た―!バンダイの変態技術!!」とか書いちゃう思考停止気味な物言いはやめようぜ、という提案です。






by kala-pattar | 2017-04-23 23:29 |  →SPRUE CRAZY