世界で初めて「模型の持つ役割」を冷静に分析した本をキミはもう読んだか。

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あなたは模型を作ったり買ったりするときに、何を手に入れているのでしょうか。
自らの望む完成品が欲しいのか、その奥に潜むモチーフなのか、作っているときの愛おしい時間なのか。
おそらくその全部なんでしょうが、なぜ自分が模型を好きで、なぜ自分が模型を作るのかについて、
要素を切り分けて自覚的に分析し、説明できる人というのはとても少ないと思うのです。
もちろん、自分もそのひとりです。




こうした思考を、社会学的なメソッドで解剖し、「模型はメディアである」という仮定に立って論じたのが

プラモデルはモノであると同時に、その奥にあるモチーフへと思考をつなぐ媒介として機能します。
だから、プラモデルはメディア(媒体)であり、「モノのメディア性」をよく表している存在だと言えるでしょう。
本書を読んでもプラモデルについて詳しくなれるわけではありません。
みんなの大好きな「模型あるある」も書いてありません。


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そこにあるのは、「模型の送り手と受け手が時代ごとにどのようなことを模型に投影し、
模型が人や世界にどんな影響を及ぼし(及ぼすことを想定され/もしくは意図せぬ機能を果たし)たのか」という疑問と
それに答えるためのあまりにも真摯な考古学的調査、そして社会学や表象文化論、メディア論で使われるキーワードの当てはめによる的確な分析です。


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「研究」というのはとても大変で、自分が扱う対象の領域と、それを分析するときに使用可能な共通言語を設定しなければいけません。
そして、「(テレビや新聞だけでなく)モノがメディアとして機能する」ということを論じるのはいったい何学なのか?というのはとても大変な問題です。
松井氏は既存のメディア考古学を使い、様々な「事実」を典拠とともに時系列的に並べた上で
記号論、消費社会論、オタク文化論が何を対象としてきたのか(そしてそこにどんな問題があったのか)を論じています。
さらに、物質文化論に欠けていた視座は集合的記憶論によって補完され、これからの「モノ」をめぐる理論が応用的に展開できるはずだと述べています。

はい、もう模型にしか興味ない人(社会学や表象文化について教科書を読んだことのない人)には何言ってるかわかんないですよね。
おそらくですが、だからこそ筆者は「模型のメディア論」というタイトルを選んだのだと思いました。
あくまで試論というか、これはひとつの学術的な挑戦の記録です。


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つまり、モノ(マスプロダクト)をめぐる言論はいまだ旧来の学術的領域の多くをオーバーラップしたまま言論の大海にプカプカと浮いているのです。
誰かがその大海に漕ぎ出し、飛躍せずに過去の論文(点)を多くの線でつなぐことで、ひとつの領域として埋め立てる必要がある。
そのときに、まずわかりやすい対象としてメディア性の極めて強い「模型」という対象をひとつの例として選んだのではないか、と。
(もちろん、松井氏が模型をよく知っていて、彼自身が模型好きであることは本書の端々から伝わってきます。)

日本の歴史を軸に述べている(国際的な関係性の欠落が本書の価値を下げるものではない)ので、
プラモデルの歴史に詳しい人間からすると「じゃあアレはどうなんだ?」「コレはどう説明するんだ?」という感じを受けるかもしれませんが、
それを引き継ぐのは本書を読んだひとりひとりの人間ではないでしょうか。


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戦前に模型が担っていた役割、戦後に模型が担わされた役割、そしてポストキャラクターモデル時代における模型の役割の変遷。
さらに、「お台場ガンダム以降」について紙で読める(居酒屋の与太話ではなく、きちんと「論」が構成された)文章は世界初だと思います。
なによりも、古今東西の模型誌や新聞をこれだけ引用し、まるまる一冊スジの通った論を展開したその努力に、心の底から拍手喝采なのです。
模型について、きちんと学術的マナーを踏まえて出版された本というのは本当に少ないのですから。

もしあなたが模型好きで「私はいま、何と対峙しているのだろうか?」ということに自覚的でありたいのなら
(残念ながら、模型を好きな人のなかには自分が何を大事にしているのかがわからないまま喧嘩を続ける人間も少なくありません)
ぜひとも本書を読んでみてください。

自分が宇宙のどこに立っていて、何とつながっているのかについて知ることは、とても有意義なことだと思います。
ぜひ。

※文中の写真は今年の静岡ホビーショーで「むむっ」と思った模型をその場でバシャバシャ撮ってきたものです。




by kala-pattar | 2017-08-21 22:34 | プラモデル