「初音ミクのプラモデル」を誉める前に、キミが知っておくべきいくつかのこと。

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▲バンダイのフィギュアライズバストシリーズ最新作、初音ミク(を組んでいる途中に出現する諸相)であります。


人間の胸像をプラモデルという仕組みのなかに強引に押し込んで新たな地平を切り開き続けてきたフィギュアライズバストシリーズ。
23作目にしてキラーコンテンツとも言える「初音ミク」が投入されました。23作って。売れてるから続けられるのか、意地なのか。

たしかに1500円で初音ミクのそこそこ大きな胸像が得られるという点で(プラモデルを組み立てるというフェーズを抜きにしても)価値ある一作だと思います。
Twitterでも買っている人がいっぱい観測されて、みんなワイワイ言っている。言っているんですが、それは「罠」であるような気がするのです。



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▲顔面に一体成型され、塗装しなくても眉や瞳や歯が「完成」した状態のパーツ。これがランナーに最初からくっついています。


このブログを読んでいる人やこれまでフィギュアライズバストシリーズを組んだことのある人なら、
「この瞳すげえ!」「金型どうなってんの?」という素朴な驚きを覚える段階はもう通り越していて、
「キャラクターの特徴や立体的にプラモデルと相性の悪い場所(横乳とか)をどう分割するかが楽しみだぜ……」という興味にシフトしているのではないかと思うのですが
やっぱり初音ミクってすごいアイコンっぽく、このモチーフだからこそ手に取ったという人々がバンダイの「技術」に驚いているわけです。



透過性の高いグリーンの後ろに白を成形するところ(瞳の周囲)、
中央の瞳孔の黒いパーツがじわっとグリーンの中に円錐台状に広がってグラデーションをなしているところ、
そして眉毛の裏に黒を成形することで「透けていない緑」を擬似的に作り出すところなどがこのパーツの見どころかと思いますが、
「最初から色分けしてある!」というところで認識がストップしてしまうと、さっき書いた「技術」に興味がとどまってしまいます。


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▲裏側を見ると、クリアーグリーンを活かすも殺すも黒い樹脂の回り方次第だということに気づくはずです。


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▲「……テテ……クミタテテ……」という声が聞こえてきそうな猟奇的構造("組田テテ"というアイドルを一瞬想像しましたが、それフレームアームズガールや)


金型の内部で複雑な工程を繰り出すことで(具体的な方法はググってください)ひとつの成形品のなかに複数の色を打ち分けることができるというのは
確かに「技術」ではありますが、基本的な原理はとても古く、しかもガンプラ由来ではなかったりします。
このミクさんがすごいのは「じゃあその技術をどう使ってユーザーに驚いてもらうか」というアイディアのところで、
例えば眉毛と瞳をたった3色(肌色を除く)でどれだけ表情豊かに見せることができるか?という思考がここに詰め込まれているわけです。
ちなみに本シリーズの従来品では「瞳だけで4色使う」という手法が用いられていたため、色数だけで言えばミクのほうが少ない。
なぜ少なくしたのかと言えば、最初から肌色の顔面に瞳が象嵌されているという状態のほうがインパクト大だという判断が働いたのでしょう。


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▲プラモデルに根本的な技術革新はそうそうありません。アイディアと判断こそが、革新の力なのです。


さて、顔面の話をしすぎましたので体を組んでみようと思うんですが、これがまた非常にオーソドックスな構成なんですね。
本シリーズが見せてきた狂気じみた分割と再構成のドラマはそこから欠落していて、至極まっとうな分割で、至極まっとうに完成していく。
初音ミクがそもそも色数が多いキャラではないこと、下乳にアンダーカット(金型から抜けないオーバーハング状の部分)が発生するほどグラマラスではないこと、
髪の毛もド派手なギュルギュルカールではなく、おおきくたゆたうツインテールであること……。

個人的な感想を言えば、フィギュアライズバストの異常性みたいなものをプレゼンテーションするときに
この初音ミクというキャラクターはモチーフとしてあまりにも記号が少なく、すんなりと立体化できてしまう対象だったのではないか、と思うわけです。
(顔が可愛いのかどうか、ポーズに硬さがあるかないか、という彫刻的な美醜についてはあまりに観念的になるのでここでは論じません)

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▲髪の毛はわりと薄いデザインでボリュームを抑え、決め角度で見たときに投影面積が大きくなるよう設計しています。そういうところが「アイディア」だよね。


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▲口腔内の色を再現するためだけに、この桃色のパーツがぺろっと付いている。シールではだめなんだ、という叫びがここから聴こえるわけです。


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▲前半身がドーンと1パーツなの、フィギュアライズバストシリーズでは特異というか、前例がないんじゃないでしょうか。シワの造形は秀逸だと思います。


強いていうならば、肌色のパーツに合わせ目が出ると「人間の肌に分割線が入っている」という生理的な嫌悪感を発生させがちなので
今回はポーズ選択の巧さも相まって(アームカバーをしているというキャラクターデザインの勝利な気がしなくもないのですが)
右手親指付け根以外の場所には分割線が出ないような設計になっています。


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▲スライド金型を使って成形された右の肩にそのまま腕と手を付けてみると「プラモデル!」という図が出現します


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▲二の腕〜肩〜腋〜横乳の予兆が一体成型されていて破綻ないのは素直にすごいなぁと思いました。


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▲アオリで見ると、左腋の下も骨格や筋肉の存在を存分に感じさせる起伏が彫刻されています。黒パーツがツヤありで成形されてるのもGOODですね。


本シリーズでは珍しく「組んでいて強烈なサプライズがあるわけではない、オーソドックスなフィギュア・プラモ」という印象を受けましたが
まあよく考えたらどのプラモデルもホームラン級に謎の新アイディアを注ぎ込んでいたら開発マンも設計マンも死んでしまうでしょうし、
これくらいスパッと(開発設計以外のところでいろんなハードルがあったかもしれないことは否定しませんけど)作れるものに拍子抜けするのは
シリーズそのものが成熟したと同時に、受け手の舌も肥えてきた証拠なのかしら、などと思うわけです。

それでも「なんじゃこりゃすごい!」と驚く人がたくさん見受けられるのは、ひとえに初音ミクが新規ユーザーに強くアピールするモチーフだということでしょう。
願わくば、今回驚いたユーザーが他のアイテムを手にした時「こっちのほうが異常なアイディアに満ちあふれてないか!?」と驚いてほしいし
もっと言うなら、百花繚乱の女の子プラモがそれぞれに持つ個性を比較し、分析し、的確に批評し、さらなる新しい「アイディア」を喚起する力になってほしい。
あまりにも走りやすいハイウェイのような初音ミクのプラモデルを組んで、そんなことを考えました。

あなたはプラモデルの表層を見て驚いていませんか。キャッチーな罠にはまったまま、思考を止めていませんか。
もっとディープに、ランナーをためつすがめつして、裏も表もじっくりと味わってみてください。そこには数々の「アイディア」と「ジャッジ」がひそんでいるのです。




by kala-pattar | 2017-08-29 23:21 |  →SPRUE CRAZY | Comments(0)
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