「模型で作った模型の模型」、バンダイのミレニアムファルコンが持つ"パーフェクト"の意味【後編】

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▲バンダイのパーフェクトグレード ミレニアム・ファルコンを組み立てました。端的に言って、最高の体験です。


スター・ウォーズに登場するミレニアム・ファルコンというメカは、プラモデルのパーツを寄せ集めて作られました。
使われたパーツがなんなのかをほぼ完全に解析し、そのパーツたちをもう一度設計しなおし、ユーザーが再び寄せ集めて作るプラモデルがここにあります。
これがいかにストレンジなことなのかは、以下のエントリに書きましたのでまだ読んでいない人はぜひ読んで下さい。



はてさて、ようやっと組み上げる時間が取れたので、みなさんにお見せできるところまでやってまいりました。
メチャクチャな集中力を発揮すれば、組み立てに8時間程度、デカールの貼り付けに4時間程度、そこから汚し塗装は好きなだけ、という感じで完成します。
もしもゲートを切り離した痕をひとつひとつ削り、丁寧に丁寧に組み上げたら、軽く1ヶ月は打ち込めるプラモデルだと思います。
そうこうしているあいだにほしいプラモが3万個くらい発売されてしまう現代なので、素早く組んで、素早く納得したい。プラモデルの早食い王に、俺はなる。




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▲まずコクピットから組み上げます。なかには6人の登場人物から4人を座らせることができます。まずこのフォーメーションで悩む……。


なんでチューバッカだけ茶色いかというと、一瞬だけ「塗ろうかな」と思ったんですよね。
ただフィギュア塗るとバリバリやっても4人で8時間くらいかかります。俺は先にミレニアム・ファルコンの全体像を見たい。人生は短い。
選択肢としては「乗せない」「見ない」「あとで塗る」という方法がありますが、俺は最後の「あとで気が向いたら塗る」を採択しました。

(問題は完成するとコクピットバラすのが激しく面倒になることです。
なので、持っている人はJ1パーツ(動体とコクピットへの廊下をまたいで繋がる配管)を途中でぶった切っておくと頭を抱えないで済みます。
あと巨大なダボがかなり強力に噛み合いますので、この辺を斜めカットするなりして着脱を容易にし、最後に接着するなどすればOKかと。)


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▲先端部の穴の中のメカ部分。異常に詳細なディテールが入っていますが、とにかくガンガン組みましょう。ゲートの痕なんて、ほとんど見えません。


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▲穴メカを上下の板で挟んでから配管を走らせます。接着剤は不要。指で押し込めばいいし、むしろ接着すると溶剤の成分で細いエラストマーはバシバシ折れます。


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▲胴体側面のゴッチャゴチャなディテールもビシバシ組めます。ランナー状態で写真を撮っていたときには気づかなかった古今東西のプラモデルのパーツに改めて感嘆。


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▲胴体側面の丸いユニット。ほぼ実物どおりの立体構成になっています。ホンモノのプロップを作った人たちがいかにセンス良くパーツを組み合わせているか、追体験できます。


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▲胴体後縁にずらりと並ぶF1マシンのリアウイング。これも一つ一つはめ込みますが、びしっと精度良く並ぶし、この辺のゴチャメカは一番感動的かも。


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▲ひたすら組みます。米粒のようなパーツを組み込む指示が延々と続きますが、不思議とストレスはありません。「実物と同じものを実物と同じ構成で組んでいる」という実感がある。


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▲見ているだけでうっとりするような景色が。表面積が通常のプラモの4〜5倍なので、もはや眺めるというよりも「探査」とか「探検」の領域です。


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▲「曼荼羅」と呼ばれる胴体後部上面の詳細。いつか京都の博物館でホンモノ見たのと同じ興奮が自分の家の机の上でブワーっと蘇ってきます。


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▲クアッドレーザーは極めてクレバーな分割で、初めてその取付方法と射撃範囲の意味がわかりました。あと1/72と違って「窓枠だけ」のパーツ入ってるのも超絶嬉しい。


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▲アンテナのモールドも基部の構造も「なるほど……そうなっていたのか……」という感動。模型は構造や形状をフィジカルに脳に刷り込むことができるメディアです。


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▲傷が付いて穴の空いたダメージ部も彫刻で再現されています。雰囲気ではなく、ホンモノもこういうふうにダメージを負っています。


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▲こうやって映画っぽく撮ると、ほとんどコクピットの中は見えないんスよね……。


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▲山崎製パンもドン引きの「まるごとヤークトパンター」もこんな感じで配管と絡み合いながら存在感を主張。


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▲胴体後半部のパネルが少しだけ浮いて見えますが、ここは完成後も取り外しができます。なぜなら……。


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▲ここは電飾ユニットへのアクセスハッチでもあるから。実物のモデルもこの部分は放熱ユニットや電飾ユニットが入っていたんだとか……。


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▲無改造でタラップや着陸脚やコクピットがボヤーッと光るように組み立てられます。いまにもハリソン・フォードが降りてきそうじゃないですか。


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▲エンジンもこの通りにバカーっと光って毎日光らせて拝みたい。東南アジアの寺でも昨今の仏像はLEDでガシガシ光ります。


素早く組む云々と言いましたが、680個にも及ぶパーツ数でありながら本当にサラーッと組めてしまいます。
まず説明書の構成が異常に良くできている。地味なところと派手なところの緩急の付け方、取り付けがブラインド(図ではよく見えない)ということもないし、
向きや位置を間違えないようにあらゆるフールプルーフが盛り込まれているので、誤組立てをする可能性もほぼゼロです。

いくら複雑であろうが、いくら巨大であろうが、「パーツを切って、押し込む」という動作さえできる人間ならば、絶対に組めます。
「そこそこ良いニッパーと、ピンセットがあれば誰でも組める」というのはバンダイ製品の特徴ですが、
この狂ったリサーチに基づく「ほとんどホンモノ」みたいなプラモデルでも同じ思想が貫かれているのには頭が下がります。
全パーツの組み付け強度(これは設計だけでは実現不能なんです)を確認しながら生産工程を詰めていくのを想像すると、気が遠くなります。
「パーフェクト」を名乗る理由はこういうところにもある。


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▲ということで、組めました。ここまで8時間。机は2個(パーツ置き場と組むスペース)用意しましょうね。


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▲組み上がると、Lサイズのピザよりひと回り大きいかな、という雰囲気。剛性感は高く、振り回してもギコギコ言いません。すごい。


ここからが問題なのですが、このプラモデルは最終的に「塗装するかデカールを貼るか」という選択を迫ってきます。
プラモデルなんだから塗装せえよ。ソッチのほうがエラい。という考え方も分かるんですが、
デカールは「実物の塗装の色味や塗装のハゲかたまで完璧に再現したもの」が付属しているんです。わかりますか、このジレンマが。

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▲巨大なデカールシート。実物の塗装ハゲまで完璧リサーチがされた、いわば「正解」がここにあります。


塗装は自分で調色し、マスキングして、ハゲたところを残すなりあとから塗り足して再現するなりしなければいけません。
もちろん実物どおりにハゲた状態を再現しようと思ったら、資料を見ながら……ということになります。
パーツの形状は完璧にリサーチしてくれているのに、塗装は自分のアンバイでいいのか……これは悩みます。
ということで、バンダイが提供してくれたデカールを完全に信じることにして貼りました。人生が二度あれば、こんどは自分で塗りたい(井上陽水)。


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▲バカなのでデカールを貼っている途中の写真はありません。気合で貼るしかない。


バンダイのデカールは正直品質の高いものではないと思います。
フィルムは薄く、印刷もアミ点がけっこう目立つし、インクの質のせいか柔軟性にも乏しいので、モールドの上にはると追従させるのがめちゃくちゃ厳しい。
世の中にはデカールを強制的に軟化させる薬品なども出回っていますので、こういうのを駆使してビシバシ貼るんですが、正直めっちゃくちゃ大変です。

「組み立て」のフェーズでは器用/不器用に関係なく誰でも組めるプラルモデルなんですが、「色をつける」というのはやっぱり難しい。
バンダイなら成型色で云々〜という冗談のひとつも言いたくなりますが、流石にそれも無理ってもんでしょう。
もしかしたら、「ミレニアム・ファルコン用カラーのペン」とかを使った方が楽かもしれませんが、そんなもんはない。
塗装とデカールは難易度とか使用するHPがどっこいどっこいなので、ここは結構究極の選択だと思います。あなたはどうする。


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▲ということで、デカールの乾燥待ち&つや消しコートで半日、あとは気合でウェザリングに半日。なんとか完成いたしました。


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▲スジはタミヤのウェザリングマスターで大枠描いてから芯を塗料で描き込んでいます。


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▲ススやらシャドウやらはエアブラシでガガーっと。スジはコピックで描いたほうが楽かも。「細くてシャープなのにボケ足のある汚れ」はけっこうテーマですね。


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▲クローズアップすると雑だなオイ、という感じですがこっちは急いでるし肉眼で見るとかっこいいから良いのです。


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▲やや濃い味に仕上げてしまいましたが、実物はコレの3.5倍の大きさなので密度感的にも仕上がりが違って良いんじゃないでしょうか。


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▲巨大な充足感とともに正面からshootしました。感涙。こまかいコーションは差し色になるので、このあと貼ります。


……ということでPGミレニアム・ファルコンを組み立てたわけですが、こういう物体が実質4日で完成する、というのは本当にすごいことだと思います。
デカい、細かい、というのはプラモデルの本質ではないと思っていました。個人的には「正確さ」だって二の次でいいや、と思っていました。
しかし、このミレニアム・ファルコンだけは「絶対にこれ以上正確なものができない」という意味で、
もうあらゆる人の知識や感情の向こう側に厳然と「正解」を携えて屹立しています。

ありとあらゆるものが完成品になって売られているいま、モデラーはなぜプラモデルを作るのでしょうか。
それはおそらく、あらゆるモデラーが「俺のほうがアイツより良いものを作れるかもしれない」という自分の可能性を信じているからです。
自分のほうが、実物への知識が豊富である。自分のほうが、より細かい工作ができる。自分のほうが、より実物に近い塗色を再現できる……。
それは実物やイメージの再現であると同時に、自己表現でもあります。

しかし、バンダイのミレニアム・ファルコンはそういった可能性をある意味で拒絶する究極の一品です。
ミレニアム・ファルコンにはガンダムと違って、1.7mのプロップという「ホンモノ」があります。
そこにどんなプラモデルのパーツがどう使われているのか、これを開発した人たちは知悉しています。
言ってしまえば、これ以上の資料がこの世にないんですから、どんな人でも、組み立てるだけで「絶対にこれ以上ない精度のレプリカ」が手に入ってしまう。
これはプラモデル界のシンギュラリティです。「表現」と「再現」の価値をひっくり返してしまうかもしれない。

戦車や飛行機やガンダムのプラモデルを組みながら貴方が何処かで考えている「表現」を飛び越えて「再現」というパラメーターが異常に突出したプラモデル。
史上おそらく最も巨額の資金と手間をかけて作られたプラモデルとして、確実に後世に語り継がれることは間違いありません。
これを超えるには、いったいどんなアイディアや努力が必要なのでしょう。ぜひ貴方も組んで、その強力なフォースを感じてみてください。
ヤヴィンからは以上です。



by kala-pattar | 2017-10-29 22:30 |  →SPRUE CRAZY | Comments(0)
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