【GNH】ゼロ年代終わりのブータンを旅行してきた。【その6】

12/28の朝。ゆるい。

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▲のっそり寝坊、全員寝坊。ちょっと遅いとかそんなレベルじゃなく、ガチ寝坊。


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▲朝からメシが旨いので、延々食べてしまう。出発はどんどん遅れる。


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▲歯磨きも外。牛といっしょにワシワシ磨く。晴天ナリ。


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▲それにしてもヤマゲン(左)は隙あらば寝ようとする。



昼も間近、というところでようやく出発。
この日はパロ郊外にあるタクツァン僧院(Tiger's Nest)まで軽いトレッキング。
全員バスで車道の終わりまで連れて行ってもらい、歩き始める。

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▲なんだか知らんが、どこに行っても暇そうな人がいるのがブータンの不思議なところ。


駐車場から目的地のレストハウスまではおそらく3〜4kmほどの山道だと思う。
規模としては高尾山に毛が生えた程度のルートだ。

しかし、これがアホみたいにキツい。

なんせレストハウスの標高は2800メートル。
空身(カラミ)とは言え、日本アルプスの主脈を歩いてるのと同じくらいの酸素量だ。
そして日本の一般的な山道よりも道は悪い。しかも急登が続く。
つらい。
陽射しが強く、気温が低いのに汗がじゃんじゃん出てくる。
2時間弱をかけて、黙々と歩き倒したところに大きなマニが見えてきた。

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▲なんでそんなところに建物が建ってるんですか……と思わず言いたくなるタクツァン僧院。


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▲べつにあそこまで登るワケではない、と知ってチョケる面々。


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▲しかし登り始めてみるとこれがかなりキツい。無言になる。

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▲ようやく鞍部までたどりつき、ほっとする面々。レストハウスで遅い昼食が待っている。


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▲レストハウスからの眺望はかなり良い。左の山の中腹にへばりつくのがタクツァン僧院だ。


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▲すこしだけ西洋人向けにアレンジされたブータン料理が出てくる。やっぱり旨い。ビールが進む。



で、このときすでに14時とかそんなもんだったと思うのだが、
どうしてもあの崖っぷちにたっている僧院まで行ってみたい、とKineyに相談。
往復と下山の時間を考えてちょっと渋い顔をしたが
(「そもそも出発しないでグータラしていたのはお前らだろ」という表情含む。)
サクッと行って帰ってこようということで、女の子2名がレストハウスに残り、
7名+Kinleyでアタックすることに。
さっきの道でもキツかったのに、大丈夫なのだろうか。
とか思いつつ荷物をさらに軽くして出発。

正直ルートが全く見えず、どうやって僧院までたどり着くのか不明だったが
歩き出してみれば何のことはない、ちゃんとしたステップが岩肌に切ってある。
右を見ればずっぱり500mは切れ落ちているだろうという崖が続くが、
植生が豊かなので高度感はない。むしろ爽快感が先立つ。

ちなみにバッテリー切れたのでここの絶景は写真なし。
(えーっ、って声も聴こえてきそうだ。正直なところ、写真映えしないタイプの絶景。
「その足で行って、実際に目で見るべしだなぁ」と思ったので、あんまり悔しくない。)

ちなみに、グル・リンポチェという人物が8世紀にブータンに訪れたらしい。
で、奴は虎の背中に乗って飛んできたらしく、その結果この一帯はTiger's Nestと呼ばれる。

タクツァン僧院は崖っぷちに建ったたいそう立派な寺院で、
はっきり言ってどうやって建てたのか全く理解できない。
おそらく日本で言う強力(ごうりき)に近い人物が石や木を運び、
卓越したバランス感覚の大工たちがひたすらがんばったのだろう。

現地の人に聞いても、「飛んできてあそこに収まった」としか言わない。
「グル・リンポチェのことだって、伝説でしょ?」と聞いても、
「本当にあったのだ」としか答えない。

それがネタなのか、本気なのか、信心から口をついて出るのか、
とにかくこの国の人たちはそういうレベルで仏教とかグル(仏教以前の偉人)をとらえていて
こうしたネタにいろいろ議論をふっかけてみるとそれはそれはいい酒のつまみになった。

この日の夜も、パロ・ゾンで見た仏画の意味が理解しきれなかった男同士で
Kinleyに質問をしたところ、それはそれは丁寧に理解させようとしてくる。
ところが互いに英語が拙いので、理解度がどうしても一定のゾーンに達しない。
こちらもヒートアップ。Kinleyもヒートアップ。てか多少キレ気味。
でも日本の仏教文化とすりあわせて考えながら話しているこっちにも興味があるらしく
とにかくケンカ腰になるまで真剣に話をしてくれる。
Kinleyはそれくらい熱い男であった。

タクツァン僧院の本体までたどり着く旅行客はあんまり一般的ではないらしいが
Kinleyはちゃんと手を回しておいてくれた。
石段を這い上がって僧院の中に入ると、修行僧がいる。
で、なんかこう、派手な部屋にたくさんの供え物があって……
高い場所にある、ということ以外はあまりありがたみを感じないのだな。

で、後で調べたら'04年に改築('98年に焼失したんだと)……。

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▲なかなかすごいところに見えるが、意外とアプローチは簡単。



この国、なんでもかんでもすぐ燃えて、すぐ建て直して、
古いもんがあんまり残っていないのである。

日本の仏教美術というのは古いものほどありがたがられ、
国の保護も厚い。というか、古くないと保護されない。
保護されるとありがたみレベルが上がり、事故にあいづらくなり、歴史を重ねやすくなる。
歴史が重ねられるとありがたみのレベルがさらに上がる。

中国でもそこらへんは同じで、やっぱり古いものは美術的価値を認められ
保護され、収蔵され、修復されて、価値が下がらないよう配慮される。
それを逆手にとって、奇麗なものを古く見せるための技法すら発達している。
これって、仏教が権威と強く結びついていることの証拠だよね。

もちろんブータンでも権威と仏教は密接な関係にあるんだけれど、
生活インフラとしての仏教なのだ。システムとも言えるかもしれない。
でかいもん作って権威を示すとか、歴史があるから拝めとか、そういう矮小な話じゃなくて、
呼吸のように宗教が生活にしみ込んでいる。しかも国民全員の。

だから、壊れたり風化したり色あせたり燃えたりしたら、すぐ直す。
美術という概念がない。個性もなければ侘び寂びもない。
ひたすら細かい模様をビビッドな色使いで描き、金泥を塗りたくる。
そこに作家性は介在せず、一定のトレーニングを受ければ誰でも作り出せるシンボルばかり。

そのシンボルに何の疑念も感じず手を合わせ、頭を地面にすりつけ、
手回しのマニを片手に山道を歩く。
これが修行僧じゃなくて、ふつうのおっちゃんとかおばちゃんの日常なのだ。
そりゃ壊れたり無くなったりしたら困るわな。

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▲岩肌に描かれていたリンポチェの姿。これも相当新しい筆に見える。色使いもかなりギトギト。



などと考えながら、放歌しつつ喫煙しつつくだらない話をしつつ下山。
夕暮れのファームハウスに戻ると、Hot stone bath(ドツォと呼ばれる)に入る準備が出来ていた。
これはアドバンスト五右衛門風呂みたいなもんで、
木でできた浴槽に水を張り、赤熱した石をドボンと入れてから人間が入るという
なんともワイルドな方式。結構手間がかかるらしく、翌日2000円くらいとられた。

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▲左の男の股下に見えるのが赤熱したストーンである。シュンシュン言っていて、かなり怖い。


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▲男五人でぎゃあぎゃあ言いながら3つの浴槽に沈む。Kinleyは上島竜兵ばりに熱いお湯と戦う。



このとき一番笑ったのが、Kinleyが足を湯につけるなり「アッツー!!!!」と叫んだことだ。

「コイツ日本人で日本語ペラペラで、オレらの悪口も全部聴こえているのか?」とか
「オレらが「アッツー!」と叫んでいるのを真似してウケを取りに行ったのか?」とか。
一瞬でいろいろ考えたよね。全員。

で、「ゾンカ(ブータン語)で熱いってなんて言うの?」と聞いたら「アツェー」という答え。
人間非常事態で出る声は似たり寄ったりなのね、という話。

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▲風呂は命の洗濯とか言ってる人がいましたが、まさしくその通りだと痛感。


で、この日もビールと焼酎(アラ)をぐびぐびやりながら旨い晩飯をごちそうになり、
しょうもない話をしながら夜は更け、就寝。明日こそ寝坊はするまい……。

つづく
by kala-pattar | 2010-01-21 08:11 | 行ってきた