【GNH】ゼロ年代終わりのブータンを旅行してきた。【その8】

12/30朝。
UNOの罰ゲームで「全員定刻に起こす」が発動したため、
この日はKinleyを出し抜いて全員起きる。
起きるが、日が昇らない。標高が高くて、周りの山が高いからだ。

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▲テラスの柱の模様を眺めながら煙草を吸う。一本がやたら長持ち。標高はおよそ2800m。



朝食を平らげ、バスでチェレ・ラへ向かう。
チェレ・ラはParoとHaaを結ぶ旧道にある峠で、うねうねとした山道をバスで上る。

ブータンのポップスをカーステで聴きながら、
Kinleyがみんなの職業を尋ねていく。
僕はいつのまにか「カメラマン」ということになっていた。
「こいつ、DJもするんですよ」とKinleyに吹き込まれ、
その瞬間から僕は旅の終わりまで「DJ」と呼ばれた。死ぬほど恥ずかしかった。

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▲ヤクがちらほらいて、外の気温は明らかに氷点下。



Kinleyが道中披露してくれた寓話が印象的だ。
ヤクと水牛はもともと同じ動物だった。ふたりは仲良しで、低地で暮らしていた。
塩をなめたくなったヤクは、水牛にこう持ちかけた。
「なあ、おまえの毛を全部俺にくれたら山に登って塩をとってきてやるぜ」と。
「わかった。じゃあ毛を貸してやるから塩をとって帰ってこい」と水牛は答えた。
ヤクはふさふさになって「うはwww塩うめえwwww」と山で暮らし、
水牛は毛が短くなって「ヤク帰って来ねぇなー」とずっと待つのであった。
だから水牛はずっと横目で山を睨みつけるような顔をしているんだとか。

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▲空気が薄く、すべての色がビビッドに見える。目がおかしくなったのかと勘違いするほど。



バスが停まると、そこは4000mの高みであった。
高さ、美しさ、空気の薄さ、すべてが未体験ゾーン。

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▲チェレ・ラの標高は3988m。自分はこの看板でようやくaltitudeという単語を思い出した。


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▲無数のダルシンがはためき、空は頭がおかしくなるくらい青い。



ここからちょっとした山道が伸びていて、車道よりもさらに高いピークへ歩ける。
Kinleyは煙草を吸いながらだれかと電話している。
とにかくブータンは電波網が強力だ。

みんなとちょっと離れたくて、一人で黙々とピークを目指して歩く。
煙草なんて吸っていられない。
荷物もないのに、息が切れる。
山歩きのペースより少し早いだけで、足を上げるのがいやになる。

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▲ダルシンは誰もいないところで祈りを世界中にばらまいていた。



標高を100mかそこら稼いだところで、さすがに嫌になる。
足を止めて、煙草に火をつけ、呆然とヒマラヤの主脈に目を向ける。
自分が立っているところだって、ヒマラヤの成れの果てだ。

ここで見た景色は、おそらく一生忘れないもののうちのひとつになるだろう。

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▲とんでもない距離を隔てて聳えているはずのチョモラリが迫る。7000m峰の迫力は言葉で言い表せない。


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▲空と山と祈りしかない場所。カメラを構えるのもだるいほど希薄な酸素。


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▲おそらくこれが最高所で撮った写真。遠近感がなくなる。


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▲近くの山も、すべて富士山より高い。そしておそらくすべてが未踏峰だ。ブータンは登山を禁じているのだから。


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▲気持ちいいとか通り越して、ひたすらハイになる。


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▲それにしてもこのガイド、いつ見ても画になる男だ。


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▲森林限界はもっと上。生き物がたくさんいて、植物がたくさん茂っているのが逆に異世界っぽい。


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▲ダルシンも凍る寒さ。なぜか脱ぎ出し、半裸で相撲をとる男たちの写真は撮りそびれた。ごめん。


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▲ジャンプしたくなるのはなんとなくわかる。テンション上がる。



とにもかくにも、ホントにすごい場所だった。
こんなところに車でホイホイ行けてしまうことにちょっと嫌気がさしていたんだけど
実際行ってみたらとんでもないところだった。
自分の中にある高所に対する憧れみたいなものもすごく刺激されたし、
あー、ここは確かにちょっと宇宙に近いかもね、とすら思えた。
5000m超えたらどうなるんだろう。それはそのうち見てくるけどね。

バスでHaaのホテルに戻り、昼食をとって荷物をまとめ、また出発。
首都、ティンプーへ向けて5時間あまりのドライブである。
もちろんやることがないので、これまた延々景色眺めたり、寝たり。

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▲この昼飯も激烈にうまかった! なんでもかんでもチーズで煮てあるのと、なんでもかんでも辛いのがいい。


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▲デコトラたちと狭い道を譲り合いながらティンプーへ向かう。



Haaの街を離れる前にラカン・カルポという寺を訪れた。
ここも古い建物ながら、
仏像や仏画はことごとく新品同様のきらびやかさだった。

仏像は木彫か?と尋ねてみれば、すべて塑像に金泥仕上げなんだとか。
なるほど、近くでじっと見てみると、木彫にはないテクスチャが感じられる。
でもありがたみというのはあまりなくて、それは修復を熱心に重ねているからなんだよね。

日本では修復の際に年代を重ねたものの風合いを残したり演出したりすることで
「ありがたみ」をキープするんだよ、と話してみたら、
「外見はきれいだけど、中身は古いんだ。
常に専門の訓練を積んだ若い職人が奇麗に仕上げるんだ。」と力説されて
根本的に「美しさ」「ありがたみ」の概念が噛み合ないことを教えられる。

それからもうひとつ、脱活乾漆像は知ってるか?と聞いてみたら、
似たような製法はブータンにもある、と返された。

日本には奈良っていうブータンにそっくりな景色の県があって、そこに
東大寺っていう君たちの国よりずーっとずーっと古い木造のお寺が建ってる。
そこにはブロンズのバカデカい大日如来が座ってるんだけど、さすがに
「大仏」ってのはないでしょ、とも聞いてみた。
そしたら、「いまティンプーに大仏を建造中だ」と言われた。
しかも座像のくせに170mの高さだという。牛久かよ!と心の中でツッコミつつ、
バスはティンプーへとひた走るのだった。

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▲ブータンの首都、ティンプーの市街。大きさ的には万世橋から秋葉原を抜けて、末広町くらいまでのイメージ。


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▲人間も車も多い。道は渋滞していて、商店は夜でもにぎやか。



ガイドのKineyはティンプーの街が近づくにつれ、テンションが上がっているようだった。
そりゃそうだ。
携帯を肌身離さず持っていつもチェックしている同い年の男子だ。あたりまえだ。
年末年始に好き放題やる同年代の日本人を9人も連れてド田舎をガイドするより、
家族がいて自分の会社があって友達もたくさんいて
なにより「文化」の匂いがする場所がいいに決まってる。

僕らがチェックインしたのはリバービューというこれまた高級なリゾートホテル。

目の前をティンプー川が流れ、暖かい紅茶が無限に飲めて、
ロビーではWi-Fiで無限インターネットができて、全室バストイレ付き。
部屋のTVのスイッチを入れたらNHK BSが映るし、
ベランダには小洒落たイスとテーブルが置いてあり、
そのベランダは寒くて5秒と居たくない感じ。

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▲部屋のベランダから川越しにティンプー市街を眺める。超きれい。


Kinleyは家族の待つ自宅へと向かい、僕らはティンプーの街をうろうろしてみた。

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▲車がたくさん。ほとんどはSUZUKIかHYUNDAIの軽。TOYOTAは政府関係車両に多かった。


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▲割と強気な値段で商売する土産物屋。中身は仲屋むげん堂と大差ない。


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▲クラブイベントのフライヤーもそこかしこに貼ってある。壁にはグラフィティが描かれてたり。



ブータンと言えど、首都はやはり首都だった。
商店を覗けばPS2とかiPhoneとかSDカードが売られているし、
新聞の一面はレディ=ガガだったし、歩きタバコの若者はいるし、
道ばたの側溝からはドマを吐き捨てた唾の強烈な匂いが立ちのぼってくる。

でも、
「なんだてめー観光客かオラァ!? ちょっと路地来いやぁ!!」
「ヒャッハー金持ってるぜコイツよぉ!!」
という展開にはどうやってもならなそうな雰囲気。

とにかく誰彼かまわず笑っている。たしかにハッピーそうだ。

乞食もいないし、徘徊老人もいない。
みんなそこそこの服を着て、そこそこの髪型で、ニコニコしながら歩いている。
これがブータンなのね……。
カメラを向けても誰もいやがらないし、むしろポーズをとってくれる。
あの……俺はポーズとられると写真撮れないんだよね。恥ずかしくて。

そう、目抜き通りの時計塔広場で開催されていたJICAのお祭りには
申し訳ないけど萎えた。
ブータンの首都に来た、と思ったら、『太陽にほえろ』のテーマとか流れて
ステージでは日本人が筋肉番付的なパフォーマンスを満面の笑みで披露してて
うーん、まあ国際親善だからねぇ、と思いつつ、釈然とせず。

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▲日本で言えば新宿アルタ前に匹敵するベストポジションにJ-POPが響き渡る。つらい。



またもやビールを買ってホテルに戻り、メシを喰らう。

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▲見た目こそアレだが、味付けは完璧に西洋人向け。これは物足りなかった。



「さあ、明日はいよいよ大晦日」などという概念もそろそろおぼろげになってきて、
UNOでまたしょうもない罰ゲーム大会をして、
みんなほろ酔い気分で就寝。

つづく
by kala-pattar | 2010-01-27 03:30 | 行ってきた