【GNH】ゼロ年代終わりのブータンを旅行してきた。【その11】

元旦のティンプー市街は普段通りで
人がうようよいて、車がぶーぶー走っていた。
この日は一日ティンプーを観光する予定だった。

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▲けっこう坂道の街なのだ。ティンプー。


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▲ふつうの昼ご飯を食べる。元旦なのにふつう。不思議な感覚に襲われる。



昼メシを喰ってから、
ホテルのバルコニーから見えていた白く輝く建物に移動した。
メモリアル・チョルテンと呼ばれるその塔は、ティンプーのランドマークであり、
そしてなんつーか、パワースポットであった。不思議ゾーンである。

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▲チョルテンの正面に仏像が立っている。必ず時計回りにこの仏像を巻いて進まねばならない。


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▲これがチョルテン。なんかすっごく写真が撮りづらい建物で、どうしようもない。柱の根元がかわいい。



このチョルテンは3代国王が発願(ほつがん)したもので、4代国王が引き継いで完成させた。
べつに誰が祀られている訳でもなく、なんとなくメモリアル、ということらしい。

で、チョルテンの周りをブータン人はぐるぐるぐるぐる歩いている。
広場の入り口から入ってきて、時計回りに、ぐるぐるぐるぐる。
手にはマニを持っていて、これもぐるぐるさせている。

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▲老若男女がぐるぐるしている。無目的ぐるぐる。これが病み付きになる。



先にぐるぐるしている人と歩調を合わせ、なんとなく歩いてみる。
何とはなしに、歩くだけ。
これが、かなりキている。ヤバい。気を抜くとやめられない。ハマる。

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▲このおじさんは足をひきずりながら必死にマニを回していた。



周りのブータン人はぶつぶつマントラを唱えたり、世間話をしたりしながらぐるぐる歩いている。
一人で来ている足の悪そうなじいさんや、
しわっしわのばあさん、若者、カップル、おばさん、おじさん……。
別に敬虔な祈りを捧げるでもなく、こう、当たり前のようにぐるぐる歩いているのだ。
フラーっと広場に入ってきて、チョルテンの周りをぐるぐるあるいて、
気が済んだらフラーッと広場から出て行くのだろう。

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▲右手でマニを回し、左手で数珠を繰る。これが基本スタイルらしい。



その魅力は説明しがたいのだが、
流れるプールが一番近いのではないだろうか。
流れるからなんだ、という訳ではなくて、なんとなく流されて
ぐるぐるして、気が済むまで流される。あの感じ。

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▲このマニは立派ですなー。僕も欲しいです。それ。



チョルテンの周囲には大マニもあって、その周りに座り込んだおばちゃんたちは
みんなでそれをゴリゴリ気の向くままに回しながら、延々世間話をしている。
このチョルテンの周りにはえも言われぬ空気が流れていて、かなりいい所だった。

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▲いきなりですが、ブータンの家にはだいたいチンコがぶら下がってます。これはツインチンコ。



チョルテンを離れ、今度は古民家を保存した博物館へ。
博物館と言っても、まあ古民家が保存されているだけだけどね。そのまんまだね。

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▲3階建ての立派な家。中は撮影禁止なのだった。



さっきチンコが軒下にぶら下がってる写真があったけど、
ブータンでは男根をポーと呼び、魔除けや豊穣のシンボルとして奉っている。
彫刻が建物にくっ付いてたり、壁に画が描いてあったりする。
あまつさえ射精してたりする。ドラゴンが絡み付いてたりもする。かなりかっこいい。

古民家の中は先日まで泊まっていたファームハウスと実際のところ大差はなかった。
ただし、1階が馬とか牛の小屋になっていて、2階にキッチンがあるという構成が
オールドスタイルなのだ、と教わった。
確かにParoのファームハウスはいろいろバラバラになってたな。
衛生面で動物を隔離したというのと、
「木造住宅の中で火を焚いたら火事になるじゃん」ということらしい。
いや、それ基本中の基本だろ。

で、ここでようやく点と線がつながったのだが、
仏前に備えるロウソクや炊事に使う火でブータン人はかなりの建物を失ったのだと言う。
「いや、さっさと気づけよ……」という話なのだが、
寺が焼失しまくってるのはことごとく失火で、
最近になってようやく「ロウソクを炊き続ける建物は本堂と別にしようぜ」ということになったんだとか。
そして、キッチンが居住スペースから切り離された家は「近代的」とされているのだ。

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▲男子は結構イケメン多いね、この国は。正直女の子は微妙だと思います……。



それから市街地を少し離れ、ナショナルアニマル放牧場という謎のゾーンに行った。
ZOOだと言うから動物園を想像していたのだが、山に金網が張り巡らされていて
そこにシカだのナショナルアニマルだのがうろうろしているという領域。

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▲これがナショナルアニマルであるターキン。すっげえキモい。ほんとどうしようもないくらいキモい。ウケる。



ターキンっつーのは牛とヤギが合体したような珍獣。
なんかブータンでは高僧が合体させたという伝説があるとかないとかで
まあそんなことはどうでもいい。
とにかくこの動物、キモチワルいのである。
大きさが人間臭いのか、おっさんがなかに入ってるようにしか見えない。
首が短いので草を食べるときに前脚を折って、おっちゃんこする。キモチワルい。

とりあえずナショナルアニマルであることを忘れ、
全員で「なにこのキモい生き物……ヤバい……」と連呼。写真を撮る気もほぼ起こらず。

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▲放牧地あたりから望むタシチョ・ゾン。めっちゃくちゃデカい。



タシチョ・ゾンはブータンの中枢。
霞ヶ関と皇居と法隆寺が合体したような建物で、政治と宗教の最高機関が全部収まっている。
(収まりきらないオフィスは周りに広がりつつあるが……)
ここもやはり巨大なのに5階建てルールに従って作られた伝統様式の建物。
とにかくワンフロアが異常にでかい。

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▲夕暮れ迫るタシチョ・ゾン内部。警備は結構厳しいと見せかけて、ゆるい。



一応金属探知機など空港並のセキュリティチェックがあって、内部に入れる。
たくさんの僧がうろうろしてて、でっかい執務室には国王がいるらしい。
そこで、Kinleyがとんでもないことを言い始める。
「国王ね、たぶん会えるよ」と。

最初は
「ナニを言ってるんですかこの人。寝不足でアタマおかしくなりましたか」などと思ったが
ゾンの中をうろうろしながらみんなで話を詰めていくと、どうやらマジらしい。

「今5時でしょ。国王が仕事終わってあっちから出て来るから、
そしたら観光してまーすっていう顔で周りのSPを無視してればおk」と言い出した。
いや、SP鉄砲持ってるんですけど。なんかAKみたいなやつ。

「国王が一般人と話すのをSPは嫌うけど、国王はマジでいい奴だから
きっと君たちの姿を見たら自らやってきて、声をかけてくれるだろう。」
なんですかそれ……。てかいまジーパンにユニクロフリースなんですけど……。
国王に会っていいんですかマジですか……。

で、散々ノロノロウロウロしていたら
SPに「はよ敷地から出なさい」と急かされる。
たまたまKinleyと話していた僕はどんどこ追い立てられ、
「後続も呼んで全員退出させろ」とゾンカ語でまくしたてられる。

後ろを振り返れば、
僕を除く7人が牛のような歩調で歩いている……。
あいつら、やる気だわ……。

「いいから早く出させろアホか」とキレ気味のSP。
Kinley、SPが目の前に居るにもかかわらず完全に無視を決め込み、
こちらにもアイコンタクトを投げてきた。
国王陛下の一団とおぼしき人影がが階段を下りて来るのが視界の端に見えた。
そして敷地の淵まで来たところで「お前らだけでも出ろ」と僕とKinleyは押し出され、
僕は観念した。で、振り返ってみた。



ナムゲル・ワンチュク国王陛下(29)とやまげん(27)が握手していた。



つづいて、僕を除く7人とそれぞれ握手しながら言葉を交わしていった。

国王自ら観光客である僕らに近づいてきて、
「日本から来たん?ブータンいいところでしょ?」
「あ、手にスタンプ押してある。昨日クラブ行ってたでしょ?楽しかった?」と。

聞けば、誰にでもかけられるような社交辞令でもリップサービスでもなく、
目を見てきっちり同年代のブータン人代表として言葉をかけてくれたという。

果たして国王陛下は僕の前まで来ることなく公邸に至る小径をつと曲がり、
草木の陰にオーラだけを残して行ってしまわれた。

こんなに悔しい思いをしたのは生まれて初めてかもしれない、というくらい
激しい落胆を味わった。運のなさを呪った。

僕の隣では案の定KinleyがSPに捕まり、取り調べを受けていた。
故意に国王をリスクに晒したのだから、当たり前だ。
会社の名前から電話番号から控えられ、
大声で「お前マジなにやってんの?バカなの?死ぬの?」となじられていた。

国王陛下にお目通りし、握手して会話までさせてもらった感動がみんなを支配していたが、
同時にこの27歳のブータン人ガイドが、
限りなく大きなリスクをとって僕らにチャンスを与えてくれたという事実に
全員なんとも言えない興奮を味わっていた。
このガイド、マジですごい。男前すぎる。松岡修造とか呼んでごめん。
この1週間足らずでホンモノの友達になってくれたのかもな、と思った。
だってガイドするたびにこの荒技はできませんよ、さすがに。タイホされますよ。
不敬の罪を着せられる覚悟で、国王のお気持ちを知っての計らいを見せてくれたのだ。
なんだコイツ。ヤバい。

あと国王陛下ヤバい。超フランク。かつ威厳ありすぎ。なめらか。イケメン。オーラ出まくり。
国家元首ってね、ヤバいっすよ。出てますよいろいろ。

Kinleyはようやっと解放され、
やり場のない怒りを僕らのドライバーにぶつけていた。
「国王は彼らを見て嫌な顔ひとつしてねーじゃねえか! なんか俺が悪いことでもしたか?
俺とDJはSPにつまみ出されたんだぞ!ふざけんな!」とゾンカと英語のチャンポンでまくしたてていた。
ドライバーはその叫びを聞いてからだまって頷き、「分かってるよ」という顔をしていた。

気づけば日も暮れて、あたりは暗くなりかけていた。

バスに戻りながら落胆しまくる僕を見て、Kinleyは
「DJ、おまえ握手できなかったな。
でもいいんだ、国王陛下のお姿が見えただけでもありがたいことだから、
それは覚えておいてくれ」って声をかけてくれた。

忘れるか、馬鹿野郎。
もっかいブータン行って、「あんとき握手できなかった俺です」って国王陛下に言うまで死ねるか。

ありがとうKinley。最高の思い出を作ってくれて感謝している。


つづく
by kala-pattar | 2010-01-31 16:23 | 行ってきた