酩酊と昇降のミャンマー探訪【その10】

バガンを離れる前に、最後のパゴダに向かった。
ダマヤンジー寺院からほど近くにある、ダマヤジカパヤーである。

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▲入り口脇にネオンサイン!


ダマヤジカパヤーの歴史についてはよくわからないが、それまで見たパゴダとは違う雰囲気だった。
インドというか、スリランカの血が濃いのだろう。
ビビッドでゴチックで、金属色をあまり使っていないのに、ギラギラしていた。
なんというか、極楽を感じさせる景色だった。

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▲すごく好きです、このパゴダ。


物売りもいないようなマイナーパゴダだが、本体の美しさも、テラスから眺める景色も抜群だった。
僕らは最後にここを選んだMr.オッオブラザーの慧眼に感服しながら、
夢の様なパゴダ巡りの2日間が終わってしまうことに少し寂しさを覚えつつ、言葉少なにテラスをぐるぐると回った。

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▲空の青さに映える、とてもいいパゴダ。


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▲内部には金色の小振りな仏像が納められていた


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▲セルフタイマーの使い方を学習しつつ写真を撮る先輩と後輩


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▲読者諸兄はこういう写真にもう飽きたかもしれないが、現場に行くとまあ一日中見ていたくなるもんなのです。


ニャウンウーの空港まで戻った僕らにはひとつの懸念事項があった。
先輩のぶんの航空券のバウチャーを、誰かがどこかで紛失していたからだ。
誰が最後に見たのか、どこかでなくす要素があったかいろいろと検討したけれども、結局バウチャーは見つからなかった。
まあ、チケットの予約は完了しているわけだし、こちらにはパスポートもある。
マンダレー航空の職員にきちんと話せば発券してくれるだろう、と後輩が意を決してカウンターへ。
僕と後輩のふたりぶんのバウチャーをスタッフに渡し、「あの……」と話しかけようとしたところで
「もう一枚はこれだな?」とスタッフはカウンターのしたから一枚のバウチャーを取り出した。
しかも、すごいドヤ顔で。

日本語がおそらく通じないのをいいことに僕らは満面の笑みで叫んだ「ざっけんな!」「てめーらか!」と。

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結局、ヤンゴンの国内線ターミナルか、
バゲッジクレーム用の札を確認したニャウンウーのアライバルのどちらかで、彼らはバウチャーを僕らに返し忘れていたのだ。
んで、僕らが「ないんですけど」と言う前に「これだろ?」と先出しじゃんけん。ずるい。
安堵感とともに、あまりにも適当な手荷物検査のゲートを潜り、ロビーでダラダラとして、ぼくらは夕暮れのバガンを離れた。

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▲日没後のフライト


ヤンゴンに到着すると僕らはタクシーを拾ってシュエダゴン・パゴダに向かった。
シュエダゴン・パゴダはヤンゴンの中心にある巨大な仏塔であり、世界中から仏教徒が訪れる聖地。
市内のいたるところから尖塔がチラチラと見るほど高く、ヤンゴン市民は本当にこれを崇拝している。
どんくらい崇拝しているかというと、タクシー運転手が運転中にちらりと見えたパゴダに手をあわせて祈るレベル。
走行中だ。あぶねえからハンドル握ってくれ。

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▲シュエダゴン・パゴダは入り口まで階段で上がれるが、僕らはエレベーター口に連れてこられてしまい、これに乗った。


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▲正直このへんまでは、ここがどんなところなのか僕たちは一切把握していなかった。


どうせ下世話なでっかいパゴダがドデンとあるだけで、なんかすごいなー的スポットなのだろうとタカをくくっていた。
しかし、そこは完全なる異世界であった。シュエダゴン・パゴダは、やばい。

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▲仏足石。水面に反射しているライトが見えるだろうか……。


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▲これがシュエダゴン・パゴダである。


写真では何も伝わらないのがただただ悔しい。
そこはちょうど野球場のフィールドほどの広さがあり、中央に高さ100mほどの金色のパゴダが立つ。
大理石で敷き詰められた床が周囲を取り巻き、そこにも無数の大小のパゴダや傘や家や霊廟のようなものが建てられている。
すべてが金色に輝き、無秩序に集められ、考えうる最大級にうるさい彫刻と象嵌、金属とガラスと宝石で飾り立てられていた。
そして、すべての仏像の光背は、板や金属線といったありがちな表現ではなく、LEDで作られていた。
建物の縁もLEDのチューブで飾られ、ときにはすべてがLEDで作られたパゴダすら建てられていた。
まるで場違いなテクノロジーと電力の注入、そして大量の人、見渡す限りの黄金のパゴダ……。
僕ら三人はその光景を認識しつつ、まったく理解できないままただひたすら周りを見回していた。

「ナッ」という神の像があった。
「地球の歩き方」には「願い事をして、石を持ち上げて軽ければ願いが叶う」とあった。
軽い、というのは願い事をする前に同じ石の重さを予め認識しておけということなのか、それをせずに持ちあげて主観的にどう思ったか、なのか。
あまりにも適当な説明だったので、ミャンマーの少年がどう祈るかを観察した。
彼は石の前に座ってナッ神におもむろに祈りを捧げ、最後は土下座のようなポーズをとって、そして石を持ち上げた。
軽かったのか、重かったのか、なんとも言えぬ表情をして、彼はその場を立ち去った。
後輩がそれに続いて、モノマネをしてみた。
そして土下座してから、石を持ち上げた。

石は、信じられないほど重かったという。

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▲クリスマスツリーではない。ひとつひとつがパゴダなのである。


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▲こういう建物が数えきれないくらい建てられていて、大きなパゴダを取り巻いている。


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▲信じられないほどすべてが金色で、なにもかもが豪華だった。


僕らは呆然としていた。
その光景は視神経まで届き、確実に脳内で像を結んでいたが、そこまでだった。
理解の範疇を超え、ダイレクトに人間のテンションを上げる中枢を刺激する信号になっていた。
恐るべき豪華さ。恐るべき過剰さ。それを作り上げる人々の寄進。
莫大な金を以て、見た目にテンションが上がる造形とギミックを可能な限り盛り込んだ極楽。

そう、それはまるでパチンコ台のようだった。

とにかくビカビカギラギラと、理屈抜きで見るものの脳を高揚させる仕掛け。
CR ゴータマ・シッダールタ。
巨大で壮麗なシュエダゴン・パゴダとはそういう類の全く新しい体験だった。

僕らは笑いが止まらなかったが、そこにいるすべての人達は祈りに来ているのだった。
回転し、明滅するLEDのダーツボードのようなものを背負った金色の仏像に、かれらは手を合わせていた。
笑ってはいけなかった。

中央の尖塔の頂上には、ダイヤモンドがはまっていた。その大きさ、じつに76カラット。
とある僧侶が僕らに教えてくれた位置に立つと、パゴダを照らす巨大な投光器の光を分光して、虹色に輝いていた。あれもLEDなんじゃないか、と思うレベルだった。
その僧侶は僕らに金を要求してきた。たぶん、彼は本物の僧侶ではなく、コスプレした物乞いだった。

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▲恐ろしいことに、シュエダゴン・パゴダはまだ拡張するようだ。


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by kala-pattar | 2012-11-02 03:47 | 行ってきた