【超音速漫遊記 その7】天空の港

ラパスにあるエル・アルト国際空港の標高は4061.5m。
空気が薄く燃焼効率や発生揚力が平地と違うため、ここから飛び立つ飛行機は燃料を最低限しか積まず、
近場のより高度の低い空港をトランジットすることで南米・北米の各地へと向かっていく。
そう、高く飛び立って遠くへ行くための空港ではなく、低いところへとダイブするための空港。
それがエル・アルトだ。

極めて不親切なカウンター業務とイミグレーション、手荷物検査を済ませてロビーで立っていると
脂汗が流れ、膝が笑う。酸素がとにかく薄い。

搭乗した飛行機はものの2時間ほどでチリのイキケにあるディエゴ・アラセナ空港へ到達した。
海沿いにあるにもかかわらず、まるでタトゥイーンのような砂漠の真ん中にぽつんと建つ空港で入国手続を済ませ、
そこからサンティアゴへのフライトまでの時間を潰そうと空港職員に尋ねる。
「ここからいちばん近いビールを呑めるダイナーはどこにある?」と。

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50kmは離れているという返答を聞くなり我々はゲートを通過し、出発ロビーのスタンドでビールを購入した。
ゆっくりと呼吸をできるほどタップリとした酸素と海の湿気を吸ったぬるい空気が最高のツマミだった。
ふたりでどちらともなく乾杯をして、こってりとした味のビールを楽しんだ。

スタンドの売り子のおねえちゃんはむっちりとした体型で、スペイン語をうまく操れない俺をバカにしたような態度だった。
しかし「この空港にWi-Fiはないのか」と尋ねると、快く自らのiPhoneからテザリングすればいい、とパスワードを教えてくれた。
インターネットを貪りつつ2本目のビールをたいらげ、ダラダラと時間を過ごしているうちに外は暗くなっていた。

イキケはとても美しいところだった。オレンジの砂と、夕日と、酸素と湿気。
そういうものがとても嬉しいのは、ボリビアの厳しい環境から逃げられたからだった。

そこから飛行機でもうひとつのフライトを経て、アルトゥーロ・メリノ・ベニテス国際空港に到着したのは深夜だった。
チリの首都、サンティアゴの夜景はとても近代的で、ひどく安心したのを覚えている。

空港から乗り合いタクシーを飛ばし、ホテルへ向かう。
ヨーロッパ風の、まるで絵画のような石造りの建物のドアを開いて受付をすませると
俺は二段ベッドの上で潤沢な酸素を吸い込みながらゆっくりと眠った。

by kala-pattar | 2014-02-06 18:44 | 行ってきた