【超音速漫遊記 その13】フリーライド・クリスマス・イブ

死ぬほど暑い空気をかき分けてウルグアイを脱出し、再びブエノスアイレスに戻ってきた我々はタクシーに乗った。
クリスマスイブを前にして、街は信じられないくらい渋滞していた。
タクシーは遅々として進まず、挙句の果てに交通規制を理由にホテルから遠く離れた場所に我々を降ろした。
同行者の飲み友達がドイツからやってきて、ホテルで合流する手はずだった。
彼女は日本人で、大きな荷物を抱えてクリスマス休暇を楽しみ尽くそうという顔をしている。
荷物を片付けてシャワーを浴びて洗濯し、バルコニーにそれらを干せばバキバキに晴れた空の下で即座に乾いた。

両替をして、パリージャを食べ、ワインを食らい、中央駅を冷やかし、スラムの入り口でオレンジジュースを飲み、
地下鉄に乗ってホテルに戻り、そしてまた美味そうなレストランを探しては日が沈みきった頃に出かけた。
ステーキを食べ、ワインを食らい、下世話な話をして、フラフラしながらホテルへ戻って……。

旅は少しだけ様子を変えていた。
2人から3人になって、また2人きりになって、そして3人に。
男女の比率の変化は共感できる内容と冷やかす相手を変え、人数の変化は1本のワインを空けるスピードを変えた。
なんだか知らないけど、圧倒的に気楽になった気分だった。
2人だから息が詰まるというよりも、3人というのは文殊だったり毛利元就だったりして、ちょっとした全能感がある。

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明くる24日、街は死んだように静かだった。
アルゼンチンの人々にとって(クリスチャンならどこもそうなのだろう)、クリスマスは外出して騒ぐためにあるのではなく、
買い込んでおいた食材を家で調理し、家族でしっぽりとキリストの生誕を祝うための日であった。

しっぽりと祝うための家もない我々はかろうじてオープンしているチェーンのファーストフードを食べて
人通りの少ない大通りを歩き、駅員のいない地下鉄にフリーライドし、劇場を改装したという豪奢な本屋を見物した。

晩飯を食うのにも難儀するほどすべての店が閉まっていて、
結局クリスマスなど関係ないだろうと目星をつけて訪れた中華料理屋でクリスマスイブを祝った。
チャーハンもラーメンも、ビールもワインも場違いだったけど、それはそれでまんざらでもない晩だった。

大統領府の前では車道に木炭をばら撒いてその上に金網を敷き、バーベキューをする人々の姿があった。
それが何かに対する抗議なのか、単なるお祭り騒ぎなのかはよくわからないまま、
もうもうと夜空に上がる煙を3人で吸い込んで、少しだけ身なりを整えるためにホテルへと帰ったのだった。
by kala-pattar | 2014-07-26 01:44 | 行ってきた