【超音速漫遊記 その14】ワインディング・ラヴ

あんなにも明るくて暑くて、酒量を無視するように意識が冴え渡る朝はない。

一度は「履いているパンツが短い」という理由で入場を拒否されたクラブに少しだけ武装して行った我々は
Albert NeveのDJに頭の先まで溺れながら、狂ったように飲んで、踊った。
ミニマルに片足を突っ込んだようなイーブンキックと、ブレイクでぶっこまれる大ネタの行ったり来たり。
そこらじゅうから漂うマリファナの匂いと"あわよくば"を狙う男と、明滅するストロボに照らしだされる床に満ちた流血と。
窓から差し込む朝日でフロアのすべてがあからさまになっても終わる気配のないプレイは殆どお化け屋敷だった。

クラブを這い出た我々は屋台で缶ビールを買って、高く昇った朝日の中で呷りながらタクシーを待った。
クリスマスの朝、ブエノスアイレスのハイウェイを飛ばす車窓からの景色は
信じられないくらいの尿意にマスクされて、ひたすら眩しかったこと以外は何も覚えていない。

ホテルに戻った瞬間、我々は強烈な睡魔と遅れてきた酩酊に襲われ、各々のベッドに倒れ込んだ。

倒れこんだはいいが、チェックアウトの時刻は瞬く間に訪れる。
立ったまま寝そうになるのをこらえて荷物を乱雑にバックパックに詰め込み、
信じられないほどの(二日酔いとはまったく切り離された吐き気を伴う)眠気と闘いながら両替とチェックアウトの手続きを終え、
昨日訪れた中華料理屋はクリスマスでもやはり営業していて、二日酔いの胃にも流し込めるものを摂取した。

ブラジルでの年越しを経てさらに旅を継続する女子ふたりと中華料理屋の近くで別れ、
俺はホテルに預けていたバックパックを拾ってから落書きまみれの地下鉄でひとりバスターミナルへと向かった。

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ビザ取得の関係で1日半の旅程を別にするというだけだが、この国で単身長距離移動するのはなかなか緊張した。
バスの中はお約束どおり凍えるような寒さで、ダウンジャケットを羽織ったまま寝たり起きたりを繰り返し、
ブエノスアイレスから郊外へと里帰りする現地の人々が停車するたびに降車していくのを眺めた。

いつしか満員だった2階建ての車体のなかには2人の運転手と僕だけになっていて、
誰もいないアッパーデッキの最前列でうねうねと熱帯雨林のなかを伸びる道路を眺めているのは飽きなかった。
7時間あまりのドライブの後、目的の街のバスターミナルに降ろされると思っていた自分は
おもむろに入庫した町はずれにあるバス会社の社屋でエンジンが切られたのを感じ取ってひどく狼狽した。

運転手が「ほら、着いたぞ」という趣旨のことを言いながら、「予定と違うじゃねえか」という俺の顔を見て何かを察したのか、
すぐに誰かに電話をかけて、笑顔でいくばくかの現金を手に握らせてきた。
なんのことはない、「ひとりの乗客のためにターミナルまでバスを走らせるのも面倒だし
ここからお前の行きたいところまでタクシーを呼んで、その運賃は俺らが払う」という計らいであった。

待たずして現れたのはスペイン語しか喋れない老齢のタクシー運転手だったが、俺のきわめて少ない語彙をなんとか汲み取って
予約してあったホテルになんとか到着して、また英語の苦手な従業員と話をして……とやっていたらドッと疲れが出た。

が、ここはプエルト・イグアスだ。
世界三大瀑布のひとつ、イグアスの滝の観光基地であるこの街に来て、そのまま寝るわけにもいかない。
ダルい身体を引きずって歩いてみれば、宿からバスターミナルまでは至近であった。
「カタラタス」と職員に告げるとすんなりチケットは買えて、バスはするすると走りだした。

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運転手の後ろの席にむっちりとした身体の女の子が座っていて、大きなジャーを持っている。
やたらと運転手に声をかけているな……と見ていたら、それはつまり運転手の彼女だった。
上下左右にうねりながら森のなかを走る道を、イチャコライチャコラしながらの適当な運転で走って行くバス。
ジャーの中身はおそらくマテ茶で、飲んだり飲ませたり。
日本ならば向こう1ヶ月くらいはネットを騒がせる不祥事のようなものがここではごくごく自然に繰り広げられていて、
俺はそれをずっと眺めながら、そういうことにあまり驚かなくなっている自分を嬉しく思ったりした。
by kala-pattar | 2014-07-26 02:29 | 行ってきた | Comments(0)