【超音速漫遊記 その17】君がインドに行くのではない。インドが君を呼ぶんだ。

プエルト・イグアス。南米最後の街。アルゼンチンの尽きるところ。

プールに飛び込んでビチョビチョに濡れたパンツを履いたまま朝が来て、ウダウダと荷物を片付けて、
およそ一ヶ月のあいだウイングマンを務めてくれた同行者に何と言えばいいのかわからなくて、
ひどく茫洋とした挨拶をしたことを後悔しながらタクシーはプエルトイグアスの空港へと走っていった。

アルゼンチン航空のB737はふわりと空港から飛び立つと、俺に旅愁を思い切り感じさせるように身を捩って、
イグアスのジャングルの中から、悪魔の喉笛から、もうもうと立ち昇る水煙を見せてくれた。

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ブエノスの国内線空港からバスに乗ると、車窓には昼間の太陽に照らされた白塗りのクラブがドデンと建っていて
たった3日前のクリスマスパーティーの思い出を強制的に蘇らせた。
例えて言うなら、ageHaで信じられないくらい遊んでから日本を離れるガイジンが、帰りしなに昼間のスタジオコーストを見せられる感じ。
切ないなんてもんじゃなくて、とにかく缶ビールでその気持ちを胃の中に流しこむ以外、対処の方法などないのだった。

エミレーツのキャビンでiPadにDLしておいた『エビータ』と『モーターサイクル・ダイアリーズ』を観て
あまりにベタなアルゼンチン滞在の消化方法に自分で苦笑しながら、でもそれが間違っていなかったとひとりごちながら
ドバイへはあっという間に到着した。
ドバイ空港の合成観光写真屋さんでインド入国に必要なアライバルビザのための写真を撮影してもらって、
そこからものの3時間あまりでインドの地はあっけなく自分の靴底とコンタクトした。

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アライバルビザの手続きは時間と金だけかかりながらもあまりに適当で、空港の外は朝靄で真っ白だった。
あとで訊けば、それは朝靄ではなくて強烈なスモッグであり、PM2.5などという生易しい概念を超越した、信じられない程の大気汚染に起因する光景なのだった。

国内線ターミナルの入り口で小銃を持って旅券を検分しているインド陸軍の兵士をやりすごしてロビーに入りしばし待っていると、
昨年もいっしょに年越しをした大学の後輩が臙脂色のアークテリクスを背負っているのを見つけた。
しばらくラダックに一人滞在していた彼は、どこかチベッタンのような逞しさを漂わせていた。
互い高田馬場のロータリーで待ち合わせしていたかのように無感動を装った挨拶を交わし、スタンドでビールを酌み交わし、
それぞれの旅行がどうだったかを断片的にポツリポツリと話しながら、我々は向かった。

バラナシ。

そこは自分が憧れに憧れ、おそらく行くことはないだろうと思っていたけれど、それが自分のせいであることも分かっていた街。
by kala-pattar | 2014-07-30 02:36 | 行ってきた