バンダイのSTAR WARSプラモデルで考える「サスティナブルな模型ライフ」の話

※たぶんプラモデルマニア(含む模型メーカーの人、模型メディアの人)に向けた文章です。

今年6月に開催された「東京おもちゃショー2014」でのずいぶんと気合の入った発表から5ヶ月。
ついにバンダイがスター・ウォーズのプラモデルを3点同時に発売した(正式な発売日は11月22日とのこと)。
とりあえず昨日フライングでXウイングを買ってきて、メシを食うのも忘れてバリバリと組み立てた。




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接着剤は不要だし、パーツの合いは完璧。
色分けのために少々分割がうるさいところがあるけれど、
それはあくまで全塗装でパリっとした仕上がりを望むモデラー目線での意見にすぎない。
いまどき接着剤でパーツ同士を貼りあわせ、その接合ラインをヤスリでていねいに消して、
色を丹念に塗って(バンダイの)プラモデルを仕上げる人の割合は極めて少ないだろう。

それが証拠に、バンダイのXウイングにはシールと水転写デカールの両方が入れられており、
塗装指示は極めてぶっきらぼうに写真が載せてあるだけ。
正直どこをどう塗り分けたもんか、自分でも他社製品の説明図を見ないとちょっとつらいかな?という雰囲気である。

組み上がったXウイングを前にああだこうだとTwitterでつぶやいていたら、どうにも我慢できなかったので
今日残りの2点、タイ・アドバンストとダース・ベイダーを買ってきた。

まだ組んでいないのだけれど、パッケージを開けてパーツをまじまじ見たら
(当然ながらルークの乗るXウイングばかりが店頭では売れているようだが)
「ああ、Xウイングよりこっちのほうがすごいじゃないか!」と思える内容だった。

もしもあなたがプラモデル好きで(もしくはスターウォーズファンで)、
今後も「気が向いたときにパッと買える値段でプラモデルを楽しめるという状態」が続いてほしいと願うならば
なおさらそうすべきだよな、と思ったので思わずブログを書くことにした。

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べつにどこのディテールがどうしたこうした、このキットのここがすごい!などということを書く気はない。
(プラモデルが好きなら写真を見れば分かるだろうし、これからいろんなメディアでそれは書かれるはずだから)

それより何より、僕は今日まで
「バンダイは本当にSTAR WARSのプラモデルを作ってくれるんだろうか? 本気でやってくれるんだろうか?」
と、勝手に心配していた。

で、それは杞憂だった。

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これからおそらく、「昔のアレが良かった」「バンダイはここがわかっていない」「他社製品が買えなくなって迷惑だ」といった
いろいろなマニアの声が噴出してくるだろう。何がどこから発売されたってそれは変わらないと思う。
そして、これほどまでに厚い層を形成しているSTAR WARSファンである。
プラモに詳しくない人もいるだろう。グッズ感覚で買う人もいるだろう。
その全員に向けて「だれでも組めるプラモデル」を作っているバンダイってのはつくづくスゴいな、というのが感想である。

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ファインモールドがSTAR WARSの製品化権を獲得した時は、よくニュース番組なんかで特集されたもんである。
「ルーカスフィルムの厳しい厳しいクオリティの要求に応えられる日本の小さな模型メーカーが快挙を成し遂げた」と。
そりゃいろいろ経済的な理由とか時代の違いとか版元の移動とかあっただろうけども、
バンダイはそれをきちんと踏まえて今回の模型化にこぎつけている、というのも恐ろしいことだな、と思った。
少なくともスターウォーズの劇中に出てきた物体の模型として「そりゃねーだろ」というポイントはないように思う。

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そして当然ながら従来の製品についてしこたま研究してあるのも恐ろしい。
過去の他社製品を作っていて「なんでここ、こういうふうにしか組めないんだろう」って思ったところがことごとく組みやすくなっている。
タイ・アドバンストの船殻が前後で大胆に分割されながら外装にビシッとハマるところなどはバンダイならでは。
新しい技術ではないが目を引く「ソーラーパネルの多重多色インサート成形」もいいが、こういうところは本当にスゴい。

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もちろん「そんなところの形状はマニアにしかわかりません」という些細な形状についても世界で一番リサーチされているプラモデルである。
劇中プロップバンザイ!な人間にとっては表面の分割線などが痛し痒しな部分もあるかもしれない。
ただ、誰でも確実に「世界で一番正確なSWプロップのミニチュア」を手に入れて組み上げられることをむしろ嬉しく思うべきじゃなかろうか。
こう書くと押し付けがましく聞こえるかもしれないけど、
結局「組みやすい!」と思ってもらって、次回作にも興味を持ってもらうのが大事だろう。
シリーズそのものが尻すぼみになってしまうのは本当に困るし、僕はこのシリーズを永久に続けてほしいと思っている。

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こういう「バンダイってすごいよな論」を書くとよく「最新技術が!」的なことをリアクションとして返されるのだけれど、
プラモデルの設計製造において抜本的な最新技術なんてあんまりない。
「誰がどんなふうに買って、どれくらいの時間でどんな気分で組むんだろう」ということが
設計する人や製造する人や企画する人によって実直に考えられているか、そうでないかでプラモデルって大きく変わってくる。

(先日HKモデルから発表されてTwitterではそこそこバズった
「スライド金型を投入しまくってほとんど合わせ目消さなくても完成しちゃう1/32のモスキート」
だって、別に新しい技術など使われていない。新しいのは技術じゃなくて、考え方だ)

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ベイダーのヘルメットはテロテロに輝いていてほしい。じゃあそうであるべきだよね。
ゲートがツヤありの面に来てると完成時に萎えるよね。
じゃあアンダーゲート(サブマリンゲート)にしておこう。

こういった判断があらゆるパーツに下されていて、とにかく「抜かりない」っていうことに驚く。
当たり前に組めてしまって、当たり前にルックスが良くて、当たり前に動く。
僕ら受け手はちょっと麻痺しているような気がするけど、ちょっとは気にした方がいいかもしれない。

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なんでそんなことを言うかというと、
「Xウイングばっかり売れてる現状」がちょっと危ないよな、と思うからである。
もっと言うと、「Xウイングだけ買ってそのあり方に文句を言う」という未来がちょっと見えていて、個人的にはそれを危惧している。

たしかに人気があるアイテムはどんどん売れるだろう。
それ自体は否定しないんだけど、結局それって「売れセンのアイテムを作れば売れる」っていう判断を
メーカーとユーザーが協力して強化していくこと繋がるんじゃないかしら、と。

プラモデルって、自動車みたいに「速い」「燃費がいい」「何人乗れる」「かっこいい」みたいな評価軸がない。
極論すると「Aというモチーフが製品になるかならないか」の世界で、その出来がいいとか悪いとかで延々討論している世界。
(スケールがどうとか、解釈がどうとか、そんなのは「マニアのワード」だ)

でも、人気のあるアイテムにもないアイテムにもかかっているコストってあんまり変わらないわけで、
そうなると世の中は人気のあるアイテム(零戦と大和とティーガーとガンダムとシャアザク)のプラモが正義だということになる。
あれも欲しいこれも欲しいというたくさんの多種多様な願望を少しずつ叶えるのが難しくなる。それはつまらない。

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「人気無いアイテムまで全部買え!」というつもりはない。
プラモデルが好きな人、プラモデルを評論する人、メディア、そしてプラモメーカーは
「多種多様な願望を少しずつ叶えることができるマーケット」をきちんと作らなきゃいけないよな、と。

これのこんなところがいいよ、というのをきちんと見極めて褒める、PRする、改善策を出す。
それを文章なのか、作例なのか、写真なのか、製品なのか、どんなカタチでもいいけどアウトプットして、より多くの人に知ってもらう。
そうしないと「プラモデル、儲からないからやめようぜ」ってことになりかねないと思うんだよね。

無責任に今までの実績から売れる売れないを判断したり、過去の(今じゃ買えない)製品の良かった話を延々垂れたり、
人気のあるもん買ってきてここが良くないとか分かっとらんとか言ってると、いつか自分の首が締まっちゃうぞ、と。
自分もその一員だったな、と思うからこそ自戒の念を込めていまこの文章を書いている。

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ちょっとプラモデルマニア以外には理解し難い話になってしまったかもしれないが、
いつでもどこでも欲しいプラモデルが手頃な(もしくは「だと思える」)値段で買えて、
同じ趣味の人とああだこうだ話して、次はこんなのが欲しいね、と夢見られる世界。次はこんなのを作ろう、と企む世界。

それをSWプラモでも構築できたらいいな、やってやるぜ!というのをバンダイ製パーツを見て感じたのだった。
プラモデルをより長く楽しみたいならば、SWをより長く楽しみたいならば、一票を投じてほしい。
「なんだ、買えば金が回って企業が潤うって話か」ということではない(僕はバンダイの回し者じゃないしね)。

コレをきっかけに「どのアイテムがプラモデルになってほしいか」じゃなくて「どういうプラモデルが嬉しいのか」ってことを
ひとりでも多くの人がちょっと立ち止まって考えてくれれば、と思う。
「売れ筋アイテムの焼き直し」でプラモデルコーナーの棚が埋め尽くされてしまう前に。


■実際にXウイングを作ってるところ(&オススメの工具)はこんな感じです。

■バンダイのミレニアムファルコンの作り方はここから。





by kala-pattar | 2014-11-22 00:05 | プラモデル