プラモデルがもっと人気の遊びになるためには「初心者」と「マニア」を区別しないことじゃないかって話

この頃の宇多田ヒカルはほんとにかわいい。今も可愛いけど。


さて、バンダイホビー事業部より「2015年発売予定」とだけ告知されている「1/12 スカウト・トルーパー&スピーダー・バイク」。
まだ具体的な時期はわからないけれども、発売されればそれが「決定版」となることは間違いないので、
家に積んであったAMT(旧MPCだよね?)のスピーダーバイクを成仏させることにした。

■大昔のプラモデルを組んだ感想


金型は30年以上も前に起こされたもので、設計技術も製造精度も今のプラモデルに遠く及ばない。
これまでになんども雑誌作例でメッタ斬りにされ、「芯にしかならん」みたいなこと言われている
けっこうかわいそうなキットではあるけれども、パーツを見る限りスピーダーバイクにしか見えないので塗らず削らず改造せず、
そのまま組むことにした(完成したら一色でドカンと塗ってオブジェにしてしまえば良い)。

これがまあひどいキットで、単純な箱型のユニットをが真っ二つに分割しただけのパーツも合わないし
ゲート(ランナーとパーツを繋ぐ棒)がごんぶとで、切り出しも整形もめんどくさい。
パーツをここに貼ろうね、っていうガイドは一応あるのだけど、精度が追いついていないのでその通り貼れない。
なんなら説明書を見てもどこに何を貼ればいいのかわからないところすらある。
スカウトトルーパー(乗ってる人)は豪快に前後2分割になっていて、まるで人形焼のようだ。

とはいえ、そのへんはこちらも百戦錬磨なので瞬間接着剤と硬化促進剤でゴリゴリ固めつつ、
不明な点は手元の資料を見ながらフィーリングでバシバシと貼っていく。
ものの1時間くらいでカタチになって、全長30cmあまりのスピーダーバイクが眼前に現れた。

プラモデルを組んだことがない人がいきなりこれを手渡されたらおそらく組めないシロモノだけど
まあ1時間くらいでガシガシ組めば「どう見てもスピーダーバイクにしか見えないもの」が得られる。

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■最新のプラモデル、バンダイのAT-STとくらべてみた


んで、写真の左に写っているのがその余勢を駆って組んだバンダイのSWシリーズ最新作、1/48 AT-STだ。
もうとんでもなく出来が良い。出来が良いっていうのはどういうことかというと
劇中に登場した撮影用の模型にそっくりというか、そのままなのである。

スター・ウォーズの旧三部作に登場するメカのほとんどはミニチュアや実物大の模型で撮影されている。
こうした模型はプロップと呼ばれ、世の中にはこれを忠実に再現したい!って人がけっこういる。
バンダイのAT-STはおそらくそういう人にもバカにされない、徹底的なリサーチと再現が行われている。

対するAMTのスピーダーバイクは実物大プロップを参考に作られているようだが、
リサーチも再現も超適当。さらに細くあってほしいところは太いし、薄くあってほしいところはことごとく分厚い。

で、どっちが「楽しいプラモ」だったか振り返ってみると、圧倒的にAMTのスピーダーバイクなのだった。
カタチがサクサク出来上がるペースとか、大きさとかがおそらく適正なんだろうと思う。
バンダイのAT-STはめちゃめちゃ良く出来ているんだけど、"ホンモノ"を再現するためにとても緻密な構成になっている。
裏返して言うと、工程を進めてもAT-STのカタチがなかなか見えてこない。
小さなパーツを小さなピンにハメようとして、ポロリ、とかグニャリ、みたいな場面もけっこうあった。
どこまで押しこめば正しい形になっているのかよくわからない場所もいくつかあった。

そもそも現在のバンダイのプラモデルが接着式でないのは「誰でも組めるように!」という配慮だと思うので
接着式にして欲しい〜(そっちのほうが楽だわ!)とか無責任なことは言わない。
言わないけど、「模型を組むのに接着剤とか使いたくないっす」「接着剤?なんすかそれ」みたいな人たちは
果たしてここまで"ホンモノに似てる"ということを理解してくれるんだろうか、という要らん心配をしてしまった。

■いいプラモとはなにか?


「ザクザク組めてバシバシ完成するプラモデル」というのはすなわちパーツの分割を制限するということなので、再現度が落ちる。
逆に「再現度の高いプラモデル」を作るにはパーツをこまかく割るのがいちばんカンタンである。
あまりに再現度が低いとがっかりするし、あまりにパーツ分割の細かいプラモデルはげんなりする。
たぶんその間に「いい感じのところ」があって、組んでいて楽しい模型というのはそこに秘訣があるのではないか。

AMTのスピーダーバイクは確かに出来が悪い。悪いけど、それは単に時代の問題である、と俺は思う。
まったく同じパーツ分割でも「劇中そっくりのプロポーションで、ディテール再現もいい感じだね」というものは作れる。
少なくとも現代の模型メーカーなら、その方法は何となく見えるし実現可能だろうと思う。
もしバンダイがAT-STと同じくらいのしつこさでスピーダーバイクを分割して細部まで徹底再現していたら
それはそれで(俺含む一部の人にとって)喜ばしいことではあるのだけど、組むのにかなりのストレスを強いるものになるのではないか。
(前後真っ二つのスカウトトルーパーはさすがに完全に思想を切り替えなければいけないが、
そのへんはバンダイ自らが素晴らしいストームトルーパーを開発して「正解」が導き出されている)

■簡単なプラモは初心者向きってホントか?


インターネットで模型の話をしていると「初心者向けの簡単な模型」「上級者向けの難しい模型」という区別を見ることがよくあるんだけど
初めてだったらどれだって難しいし、100個組んでも下手くそな人はいるし、
そもそも「まったく歯ごたえのない模型」なんて面白くもなんともない。だったら完成品を買ってくればいい。
プラモデルというのは本質的に切ったり組み立てたり(さらには塗ったり貼ったり)する面倒を買う遊びだと思う。
「難易度高い/低い」というのは「パーツ数が多い/少ない」とか「要接着/スナップフィット」とかそういう部分で測れないんだと思う。

どれくらいの労力でどういう結果が得られるのか、さらにどこをどう努力するともっといい結果が得られるのか?
そのガイドを正しくすることこそがプラモデルの良し悪しを決めるんだと思うし、
「塩梅の良い(=作業量と成果のバランスをしっかり考えてある)プラモデル」は歯ごたえがあっても美味しいと俺は思う。
(パーツの量がめちゃめちゃある「パーフェクトグレードのガンダム」は初心者お断りか?決してそんなことはない。)

模型についてある程度知識を蓄えたユーザーほど
「初心者は柔らかいもの(接着しなくて良くて短時間で組めるもの)が好きなはずだ」
「上級者は硬いもの(超絶パーツ分割によるハードなディテール再現)が好きなはずだ」
みたいな強迫観念をどこかで持ってるんじゃないかな、というのを感じることもしばしばだ。
そういう考え方が「非実在初心者」「非実在ベテラン」の像を描き出して、メーカーを翻弄したりしてないだろうか。

バンダイのSWシリーズを心から応援する者として(だってバンダイの作るスター・デストロイヤーが欲しいじゃん!)、
見えないビギナーや見えないオタクと格闘することなく、バンダイらしい「誰でも楽しく組めるプラモデル」として
何が適正なのかってのを見据えていてほしいな、という願望(と、自戒の念)を書いてたらこんな文章になってしまった。
小うるさいかもしれないけど、プラモデルはかくも楽しく、奥が深い。もっとたくさんの人が仲間になれば良いと思う。




by kala-pattar | 2015-03-22 20:14 | プラモデル