世界のトップDJがまごうことなき10代のヒーローになっているのを見て感動した話
2016年 06月 07日

2011年3月。大地震のあとなんだか外に出かけるのも億劫で、毎日誰かと集まって話をしているのが唯一の救いみたいなもんで、
俺はそのために当時住んでいたシェアハウスのリビングからUstreamで音楽を垂れ流していた。
まだTim Berg名義で流通していた当時の新譜、「Street Dancer」を決まってシメに流していたら、
プログレッシブハウス好き(当時まだEDMという呼称はポピュラーではなかった)がUstreamの常連になってくれて、
そこからDJオファーが一気に増え、月に何本もクラブでDJをさせてもらえるようになった。
「DJは他人のCDをかけてるだけ」
「ダンスミュージックはクラブに行くような悪い奴等の音楽」
「ロックやアイドルに比べれば所詮マイナージャンル」
そういう後ろめたさ(それは時として他人に向けて発せられる)をどこかに持っているのはおそらく30代以上だろう。
UMFに代表されるようなEDMムーブメントはたしかにダンスミュージックをポップに変貌させたかもしれないが、
実際現場に行ってみると「音楽を聴く」とか「踊る」とか「連帯感を楽しむ」というよりも、
個々が日々のストレスを昇華させたり、鬱積した地方都市の若者達が自己顕示欲を満たしていたり、どう考えても踊れないコスプレをしていたり。
つまるところ、音楽は馬鹿騒ぎするためのスイッチとして機能していて、ひたすらに客が「自分」を表現する場であるように見えた。
それはとてもよそよそしく、多くの人の孤独を浮き彫りにして、何十万人も集まっていることの意味を自ら否定しているかのようだった。
10代というのはそういうものなのだろうか。20代というのはそういうものなのだろうか。
それともダンスミュージックを聴く人々というのは孤独なんだろうか。そんなことすら考えた。
だからAVICIIがトップDJになり、ありとあらゆるところで彼の楽曲を耳にするようになって、
2度も来日公演をキャンセルして、とうとう4度目の正直だ。しかも今年で引退するぞ、と言われても
自分は素直に彼の公演に行こうという気になれなかった。
でっかい野球場にCDJを置いて、そこにぎゅう詰めになった孤独で自己顕示欲の強い若者たちに音楽が届くわけがない。
チケットだって安くないし、そもそもデジタル音源をスピーカーから出すだけのイベントのために
みんなが幕張に行くこともないんじゃないだろうか。そんな「何様目線」のいらぬ心配までした。
日曜日はレッドブル・エアレースでついに日本人パイロットの室屋義秀が優勝し、その瞬間の興奮もさめやらぬまま、
AVICIIのロゴが入ったTシャツの若者たちを尻目に俺はバスで砂浜を後にし、海浜幕張駅へと戻った。
スピーカーから大音量でAVICIIの楽曲を流す居酒屋で、ビールを呑みながら友だちが言う。
「あんなに好きだったんだし、一度しか来ないんだし、一人でもいいから見に行ってくればいいじゃないか」と。
会計をして、さっき乗ったバスに乗り、マリンスタジアムに急ぐ。
12000円もする当日券を買って、スタンドに駆け上がる。18時30分。
10代、20代の男女で満員のアリーナ。スタンドには俺と同じような考えだったろうアラサーが多い。

すべては杞憂だった。
AVICIIは簡素極まるステージの上にちょこんと立ち、彼が世に問うてきたダンスミュージックを丁寧に繋いでいく。
音響はお世辞にもよろしくなく、照明の演出もUMFに比べればショボいもの。
救いなのはDJブースと背後のスクリーンがシームレスに繋がった巨大なVJモニターの存在だ。
観衆は絶叫するでも吠えるでもなく、ひたすらに彼の来日を喜び、歌い、踊っていた。
ワイワイガヤガヤと話す声も、自撮りついでに円陣を組んでギャアギャアわめく声もない。
とにかく、知っている歌詞は全部シンガロング。大合唱なのだ。
正直日本で開催されたライブであんな大合唱になるのは見たことがない。
海外のフェスの映像を羨ましく見ていた自分が驚くくらいの声、声、声。
俺は生ビール片手にその景色を見て、本当に感激してしまった。
ダンスミュージックが勝利した(何に?)という妙な感慨と、若い人たちがAVICIIに向ける熱視線は強烈だった。
ロックでもない、アイドルでもない、アメリカ人でもイギリス人でもない、スウェーデンの26歳の一人の男が
ダンスミュージックだけでこの会場を完璧に支配してしまっている。
帰りがてらTwitterを検索してみると、
「AVICII セトリ」というサジェストにたくさんのツイートが引っかかる。
DJに、ダンスミュージックにセットリストという言葉は似合わないと思うけど、それはもうオッサンの感慨だ。
これはもう、彼らにとってDJイベントでもクラブイベントでもフェスでもなくて、ちゃんとしたアーティストの「コンサート」なのだ。
"高校生です。Fedde Le GrandとMartin Garrixが好きです。"
そんなプロフィールを持った10代の彼らにとって、AVICIIはヒーローであり、3度目にようやく来日した鑑真であり、QVCマリンスタジアムは東大寺の戒壇院であった。
バンドが流行らない、アイドルはクラスタリングが細かくなりすぎ、CDが売れない。どうでもいい。
oasisじゃなくて、レッチリじゃなくて、AVICII(oasisとレッチリはあなたにとってのヒーローに置き換えていいです)。
10代の子たちの体験として、それがリアルで最高で一生モノなんだ、というのを見られただけで、ガッチリとモトをとれました。
そうそう、中盤でStreet Dancer(まさかかけると思ってなかった)のイントロが聴こえた時は
もう立ち尽くしてしまったよね。
ありがとう、AVICII。また気が向いたら音楽聴かせてください。
by kala-pattar
| 2016-06-07 23:36
| Music