RGシナンジュが見せた「プラモデルを越えたプラモデル」の世界について説明する

RGシナンジュが見せた「プラモデルを越えたプラモデル」の世界について説明する_b0029315_15095691.jpg


いやはや、とんでもないプラモデルが発売されたもんです。

ガンダムのプラモデルを意味する「ガンプラ」が生まれてもう35年以上が経過しているわけだけど、
パーツを切って接着剤で貼って削って塗装しないと完成しないいわゆる「プラモデル」という形態からそれはどんどん変化し(あえて「進化」とは言わない)、
接着剤を使わなくても組み立てられるスナップフィットとか、色塗らなくてもそれっぽく見える色プラ(多色成形)とか
それを応用して作られた「組む前から出来上がっている」という驚異のシステムインジェクションとかを取り込んできた。

で、戦車や飛行機や戦艦やクルマのプラモデルが35年前とほとんど変わらない(変わっているのはモチーフだけ)のに対し、
いつしかガンプラは「パチパチ組んで置いておけるライトなオタクグッズ」として工具やスキルを持たない人にアジャストされた存在になった。

10年以上前から、ガンプラの新製品に対する褒め言葉として「モデラーが手を入れる余地が無い」という常套句があって
スタイルは良いし、よく動くし、ディテールもしゃっきり、まあ、色は自分が塗るからそこでオリジナリティを出しますか、という意味で使われてきました。
モデラーというのはつまりプラモデルを切ったり貼ったり塗ったりするのが好きな人の事なわけですけれども、
じゃあなんで切ったり貼ったり塗ったりしなくてもいいガンプラを作るんだよ、というと、
ガンダムのプラモデルはガンプラしかないから(バンダイ以外が作らないから)だと思うんですよね。

で、RG(リアルグレード)の最新作、シナンジュです。


_DSC5550

_DSC5552

_DSC5553

_DSC5554

_DSC5555

_DSC5556

_DSC5557

_DSC5559

_DSC5563

_DSC5561


外装は半ツヤの黒、ツヤありの赤、鏡面のゴールドという機体ですが、これがもうパーツの状態で用意されているわけです。
これ、塗れと言われてもそうそうコントロール出来ない領域に到達していて、ヤスリでも当てようものなら質感が変わってしまいます。
しかもパーツの分割がめちゃくちゃ細かいのかと思いきや、完成形からは想像もできないくらいシンプルな構成なんです。
(絶対的なパーツ数はそれなりに多いのですが、多くてうんざりするというほどでもなく、むしろこんな複雑な形状を
どれだけ少ないパーツ数で再現するかにチャレンジしているように思える構成です。いや、パーツ多いんだけどさ。)


_DSC5567


金メッキってそれなりに厚みのあるものなんですけど、黒いパーツとピターッと合って、
じゃあこれアンタ整形しますか接着しますかマスキングしますか塗装しますかと言われたら全力で拒みたい。
ただ2つのパーツを切ってハメるだけで上に示したような物体が出来上がってしまう。これはオッソロしいです。


_DSC5569


_DSC5570


背中に生えたタンクの先っちょに付いているスラスターのような四角いパーツ(×4)なんて、ディテールが入ってりゃ充分だと思うんですが、
グレーでV字断面のパーツに金型の限界みたいな角度で開口部が彫り込まれていて、これをX字に組んでタンクの内部に放り込む構成。
ここは流石に思わず声が出てしまいました。

すごいのは、そういうのをユーザーに「すごい」と感じさせない設計や成形の精度です。
平然とやってる。「そりゃ無理でしょw」という部分が全然ない。組み上げてからガシャガシャ遊ぶとパーツが落ちたりしますが、
指でハメるだけでウン百パーツがくっついて、そこにメチャクチャ複雑な色と構造のものが立ち現れる。
しかも誰が組んでも多分同じものが、誰が塗るより美しいツヤとともにそこにある。

このプラモデルに対して「モデラーがやるべきこと」っていうのはもう組むことただそれだけで、
(いや、ここから先にもし自分がやりたいことがあるならそれは止めませんけど、たぶんその成果物は分かる人にしか分からんと思う)
そういう意味ではマジで「オレがやることの余地が無い!」と本気で思わされるプラモデル。

やれどこがどう動くとかスタイルがどうだとかそういうモチーフの話はあんまり興味がないので
(みんなはそういうところをレビューしたがりますし)ここでは触れませんが、
切る貼る削る塗るというのをスタート地点にしていたガンプラが、ちょっとずつ変化してきた結果
ついにその「外側」にドーンと立つRGシナンジュという地点に到達してしまった。これはある意味でプラモデルのシンギュラリティというか
アイデンティティさえ揺るがすような大問題作だと思うんです。いやー、びっくりしました。

圧倒的な完成度のプラモデルと自分の味付けが切り結ぶ快楽を文字にしたつもりなんですけれども、
今回は切り結ぶというよりプラモデルに溺れるという稀有な体験をしました。
RGシナンジュ、ちょっと組んだほうがいいですよ、みなさん。びっくりしますから。
僕は少なくともマスターグレードを初めて触った時よりも大きな、脳天をかち割られるような衝撃を受けました。ぜひ。


■このエントリの写真はすべてNikon デジタル一眼レフカメラ D600Nikon AF-S Micro 60mm f/2.8G EDで撮影されています。


_DSC5606>






by kala-pattar | 2016-08-14 14:47 |  →SPRUE CRAZY