秋の夜長に宇多田ヒカルの新譜を聴きながら組み立てたいプラモデルはコレ!
2016年 09月 30日

ようやく発売された宇多田ヒカルのニューアルバム、『Fantôme』が、やっぱりとってもステキで、何度も何度も聴いてしまう。
アクサンの付いた「ô」の字から分かるとおり、タイトルはフランス語。実際に宇多田が流暢なフランス語で歌う曲もあったりして、
今年の晴天率がとっても低い秋の陰鬱な空気を(狙っていないはずなのに)すごくタイムリーに芯から打ち返している一枚である。
さて、音楽と季節、季節と匂いというものはどうしても深く結びつくもので、
おそらく10年後にも覚えているだろう「この曲と、この景色」というのはシンクロニシティによるものなのか、
人の記憶法によるものなのか、それははっきりとわからないのだけれど、このアルバムにぴったりなプラモデルが発売されたばかりなので、紹介しておこう。
■プラモデルなのか、文学なのか。
「1950年のパリは現代からくらべると鮮やかな色彩の乏しい、モノトーンの世界といってよかった。
エッフェル塔はまだまばゆい照明など浴びてはいなかったし、路地と言えばフィルム・ノワールの映画のように暗く沈んでいた。
写真家、ロベール・ドアーノはそのパリの路地を夜毎にさまよって、美しいモノクロの写真集を世に送り出した。
走り回る車にしても、シトロエン・トラクション・アヴァンは黒、2CVとHトラックはグレイと決まっていた」
この文章は、プラモデルのパッケージ側面に書かれた解説の冒頭を抜粋したものである。
プラモデルのハコには、どうしても能書きが入る。それを真面目に読んだことのある人がどれくらいいるか知らないけれど、
能書きはプラモデルというものを象徴する何かであって、プラモデルとはつまり、能書きなのである。
エブロの新製品、『シトロエン h』はとにかくキザで、なおかつドン臭く、可愛げのある「アッシュバン」を現代の技術でモデライズした製品だ。
タミヤで数々の傑作キットを手がけてきたベテランスタッフ、木谷真人氏がエブロに移籍して立ち上げたプラモデルシリーズは彼の愛の結晶でもあるのだけれど、
宇多田ヒカルと同じで「今年の日本の秋の天気」を写すかのようにアッシュバンという何とも言えないチョイスを通して我々プラモファンに問いかけてくる。
馬力やサイズといったスペックではない、華々しい活躍でもない、そのクルマが生まれた街の空気を語るプラモデルの解説。
なによりもソソるし、なによりも関係がない。だから、プラモデルはある意味で文学なのだ。
さっきの解説の続きが読みたい人は、買って読むべし。それだけで、このプラモデルを買う意味は存分にある。


▲特徴的なフェイスを形作るボンネットと、そのなかに収められるラジエター。エンジンは再現されないが、プロポーションは確かで、仮組みした印象も「正確&洒脱」だ。

▲シンプルなフロア。説明書の塗り分け指示とパッケージ側面に刷られた完成見本の塗装は一致していない。好きに塗ればいいのだ。これは貴方のアッシュバンなのだから。

▲ドアは開け放たれた状態で組み上がるのがデフォというパーツ構成。だからシートのフレームも繊細に再現される。この煮え切らない成型色が「パリ」なのだ。

▲いわゆるプロポーションモデルとしてのクルマ模型にありがちな、エンジン・トランスミッションの下面だけ再現されたパーツ。どうせ黒く塗るのだ。ホコリのこびりついた色で汚してしまおう。

▲「燈火類のレンズ面にパーティングラインが来ては興ざめでしょう?」という木谷氏の声が聞こえてきそうな、スライド金型で整形されたクリアーパーツ。セクシーです。
■さて、どうやって作ろうか。
カーモデルというのは「ツルッとしたボディをピカピカに仕上げるもの」と相場が決まっている。
しかし、このアッシュバンはGoogleで画像検索でもすれば分かるとおり、働く車であり、その愛らしいフォルムを維持したいオーナーによって
タフに改造され、塗り直され、ときにルーバーが歪み、塗装剥がれから錆が流れる「ヨレヨレの姿」が似つかわしい。
屋台仕立ての車体側面は開くように改造され、そこからビールやサンドイッチやチップスが振る舞われるような、そんな情景がよく似合う。
そう、こんなクルマが街に来て、「そこからどんなものを出してくれるだろうか」というのを考えるだけで雨の日も楽しく過ごすことができるのだ。
ツヤのムラも許してくれて、乱雑な貼り合わせもある程度許容してくれるカーモデルというのはなかなか少ない。
好きな看板を取り付けよう。好きな落書きを控えめに入れよう。ファクトリーカラーではなく、好きな色に塗って、個性を出そう。
自分がこのクルマを手に入れてお店をやるなら、カフェでも、ビールスタンドでも、なんでもできるだろう。
そこには歌のうまい美人な娘が来て、一曲歌ってくれるのだ。お代はいいよ、と言って、ボディサイドのカウンター越しにビールを奢ろう。
だんだんイメージが固まってきた。冬になる前に、なんとかカタチにして、このブログでお披露目できればうれしい。
完成するまで、宇多田ヒカルの『Fantôme』を聴き続けることにすれば、この秋はきっと忘れられないものになるだろう。
by kala-pattar
| 2016-09-30 00:17
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