「良い模型を作れる人は、良い目を持っている」ということを教えてくれる本

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ジオラマというものには万人を惹き付ける魅力がある。
単品のクルマの模型がチョンとあっても、そのクルマを知らなければ「はあ、すごいですね」で終わりなんだけど、
クルマの横に人が立っていて、石畳の地面があれば「そういう景色」になって、クルマは魅力的な風景を構成するひとつの要素になる。

ランドスケープ・クリエイション3(大日本絵画刊)の著者、奥川泰弘氏は日本でも有数のジオラマビルダーだ。
彼が作り出す「クルマやバイクのある風景」は、現実感とオシャレさが同居した、風の匂いまで漂ってくるようなものばかり。

この本では6つのジオラマを美しい写真でしっかりと見せた上で、建物や地面、フィギュアなどの作り方のヒントをHow to形式で掲載している。
しかしおそらく、ここに掲載された「作り方」がそのまま参考になるモデラーというのはそんなに多くないだろう。
それをモノにするにはたくさんのマテリアルやツールが必要だし、なにより際立ったテクニックが必要だ。
「こんな模型が作れたらどんなに楽しいだろう」と夢想しながら、熱いコーヒーを飲みつつページをパラパラとめくる、というのが正しい態度だろう。

この本は、嫁さんに見せたり、会社の同僚に見せたりしても引かれることはない。
「僕もプラモデルが趣味でね」と言いながらこの本を見せたら、「すごいねぇ!」「かっこいいねぇ!」と言われることうけあいだ。
案外、模型趣味というのはそうでない人に伝わりにくいものだから、こういう本の存在はすごくありがたい。




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この本が参考になるホントのところをこのブログの読者にだけ、こっそりと教えよう。
それは巻末のCapter 5に収録された「奥川泰弘のアタマの中をのぞいてみる」というコーナーである。
ここには模型がいっさい出てこない。奥川氏が若いときから撮り溜めてきたスナップや、家に転がっている雑貨類がゴロゴロと掲載されているだけである。

「模型をうまく作る」「他人に伝わる模型を作る」というのは、「脳内の引き出しがいくつあるか」に依存する。
モノのカタチがどうなっているか、それがどんな色をしているのか、というのを捉えてそれを再現するのが模型の第一義だとすると、
さらにそこにどんな錆や汚れがあるのか、それがどんな景色のなかにあるとかっこいいのか、それを使っている人はどんな服装をしているか、
自分がその車で乗り付けるダイナーにはどんなメニューがあると嬉しいかetc.……。こういう妄想力をカタチにするのも模型の楽しみである。
(それはジオラマという形態だけで実現するものではない。単品にも何かを少しだけアドオンすることで「演出」することができる)

ああ、この景色がかっこいいな、この雰囲気がいいな、このポスターがステキだな、この汚れにワビサビがあるな……というのを覚えておくのは大変だ。
大変だが、それを記録したり記憶したりして、自分が模型を通して何かを表現したくなったときに、スッと取り出して盛り込むことができると、楽しい。
ロボットを作るときだって同じだ。「実物のアンテナの基部はこういう風になっているのか」というのを観察している人は、
架空のメカのアンテナだって「伝わるカタチ」にアレンジしてプレゼンテーションすることができる。
プラモデルだけを見てプラモデルを作っていると、そういうステージに行くことは難しいだろう。

プラモデルというのはパーツに還元された世の中の事物を買ってきて、自分の手で再構成する営みである。
再構成(それは「復号」でもある)のときに、どんな色を付けるか。どんな空気の中にそれを再生するか。モデラーというのはそれを考え続ける人種である。
僕が常々「模型というのは『態度』である」と唱え続けているのはそういう理由で、この本にはその種明かしが(ストレートではないのだけど)載っている。
ただの凄腕自慢ではなく、退屈な教科書でもない。「見る目」とは何か、というのにスポットライトを当てた編集になっているのが嬉しい。
模型がうまくなりたい人、模型をもっと楽しみたい人には絶対に応えてくれる本書、絶対に「買い」です。





by kala-pattar | 2016-10-02 00:16 | プラモデル