95%が空気でもいい。セクシーな女の子に「プラモデルの正体」を教わった話
2016年 10月 03日
例えばパッケージにこんなイラストが描かれたプラモデルがあったとしたら、買っちゃうよね。きれいなイラストです。
ハイヒールに生足、アメ車のボンネットに手をついて、レンチを持つ手は左。黒くて艶のあるボブというのも良い。
こんなお姉ちゃんが自分の手で組み立てられるならラッキーでございますよ。
▲じつはこれ、連作になっていて、「3人娘が自分の車を整備してくれる」という妄想をプラモデルにしたもの。わかる。わかるぜその気持ち。
で、このプラモデルを世に送り出しているのはウクライナのマスターボックス社。
もとは1/35スケールのミリタリーフィギュアを旺盛にリリースするメーカーだったのですが、
「むさ苦しい兵隊だけじゃなくて、ちょっとセクシーな女の子がセットの中に入っていると売れる!」ということに気づいたのか
最近では現実/SFを問わず女の子をメインとしたプラモ・フィギュアをどんどん開発していて
挙句の果てにメインフィールドだった1/35スケールからカーモデルのスタンダードスケールである1/24に進出してきた、というわけです。
実際プラモデルを作る人というのはけっこういじらしい人種なので、こっそりと売れています。
このボブの女の子も一度店頭に並んだらスパッとなくなってしまい、最近再販された模様。だいたいの男子は、かわいい女の子が好きなのだ。
ちょっと計算すりゃ分かると思いますが、1/24の人間というのは全高70mm位になります。
で、希望小売価格は1296円です。ハコはB5より一回り小さいくらい。
想像してみてください。
B5より一回り小さいハコに全高70mmの女の子のプラモデルが入っている。どういうこと?
▲ザッツ・オール。中身はこれだけ。こういうことなんです。わかりますか、パッケージと、中身のバランス。
当たり前ですが、ランナーはグレーで一枚。
ハコを持ったときの感覚は「これ、中身入ってるの!?」という軽さで、実際開封すると中身の95%くらい、空気なわけです。
空気ですが、これは我々が呼吸しているフツーの空気ではない。
「中には女の子が入っているのだ!」と鼻の穴を膨らませた我々の期待とかムフフが充填されているんですよ。
「おれは女の子のプラモデルを買ったと思ったら 自分のスケベ心が詰まったハコにカネを払っていた」
な…… 何を言っているのか わからねーと思うが おれも 何をされたのか わからなかった……。
ここで「スカスカじゃないか!」などと怒っちゃ男がすたる。さっき計算したじゃないか。1/24の女の子は70mmしかない。
ムチムチに自分の妄想が入っていると思ったら、その正体は空気だった!!!怒るに怒れない!!という愉悦です。
空想と理論と現実のギャップ。オレたちは何を買ったのか? 空気か? この小さいパーツか? それとも、このハコのイラスト……?
そんなことが一気に脳内を駆け巡るわけです。葛藤。気恥ずかしさ。でも、もしかしたら可愛い子が完成するのかもという一縷の期待。
あらゆるプラモデルにある
「期待とがっかり(欲しい、でも俺の思ってたのと違う!)」と「一縷の希望(だって作って塗るのは俺だから、うまくやれるかもしれない)」。
両者のコンフリクトが増幅されて、ハコを開けた瞬間にドバドバと放出されるんです。マスターボックス、すごくないですか。
ハワイの空気の缶詰、みたいな。でも空気だけじゃなくて、ちゃんとパーツも入っている。このギリギリのバランス。
▲ヒールと、足と、へそ出しデニムと、二分割されたボブ。空と君とのあいだに、今日も冷たい雨が降る。でも、俺ならかわいく仕上げられる!かもしれない。
ゴタゴタ言っていてもしょうがないので、パーツを切り出して、貼りましょう。
あっという間ですよ。前後分割の胴体に、足と腕をパッパと貼り付けて、顔にボブの髪をくっつけたら、帽子をかぶせて……
ん? 帽子?? なんで???
▲この写真を撮るために、わざわざ慣れないカーモデルを一台仕上げましたよ。あ、後ろの女の子もマスターボックス製です。
なんでお前、帽子かぶってんだよ。パッケージの艶髪はどこ行ったよ! と、怒っても仕方がない。おっさん臭い顔面の造形も、受け容れるしかない。
「イラストと造形が違うじゃないか!」とウクライナ語でクレームを入れても、それは「仕様」である。
おそらく、たくさんの男たちがこのプラモを買い、同じような期待と落胆と、そして最後に自嘲気味な笑いみたいなのを味わっただろう。
「でも、期待したのは俺なんだ。あんな魅惑的なパッケージを見たら、買っちゃうもんね。」という、「でも」のところにプラモデルの全部がある。
誰が言ったか知らないけれど、プラモデルというのはハコなのです。
カッコいい飛行機の画が描いてあっても、中には飛行機が入っているわけじゃない。バラバラのパーツです。
それをかっこよくするもしないも、貴方の自由だし、貴方が頑張ればかっこよくなる(かもしれない)。
カッコいい飛行機を「かわいい女の子」に書き換えたって、それは同じでしょう(ホントか!?)
女子(とくにオカン)はよく言います。「そんなに買って、作らないのか」と。
正しい。圧倒的に正しいのですが、ある意味で、プラモデルの本体は「ハコ」なのです。最悪、ハコだけでも、買ってしまうんです。だって、騙されたい。
オレたちはこうして、またひとつ、またひとつとプラモデルのハコを積んでは夢想するのです。いつか、未来の俺が、やるんだ……と。
もし暇があったら、マスターボックス社の製品群をチェックしてみてください。そこにはめくるめく「ハコ」の世界が広がっていますから。
by kala-pattar
| 2016-10-03 09:32
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