建築模型撮り放題のミニチュア極楽浄土、天王洲は寺田の「建築倉庫ミュージアム」に今すぐ行け!




本年6月にオープンした"建築模型に特化した国内唯一のミュージアム"こと「建築倉庫ミュージアム」に行ってきました。
結論から言うと、ここはもう、「この世にあるあの世」です。幸せすぎました。もしあの世があるなら、無限に広がる建築模型の倉庫であってほしい。
老若男女、模型が好きだろうが好きじゃなかろうが、本能の一番やばいところにある中枢が麻痺し、言葉を失い、目が眩み、とめどなく感動します。




東京モノレールの天王洲アイル駅を降りてすぐ、寺田倉庫本社ビルの1階にあります。
倉庫業として設計事務所から預かった建築模型を「倉庫の形態のまま見せてしまおう」というコンセプトで、中身はミュージアムというよりそのまま倉庫。
約450平米、天井高5.2mの巨大な空間にドバドバとラックが並び、ひたすら有名建築事務所の建築模型やモックアップが飾られています。
保護ガラスもアクリルもないので模型のあらゆる細部が見放題で、撮影もOKという太っ腹かつ大胆な展示方法です。極楽です。危険です。
ひたすら興奮して写真を撮りまくってきたのでビシバシ貼っておきます。







「建築模型」というとスチレンボードでサクサクっと作ったのを想像しますが、それはいわゆる「プレゼンテーション模型」に分類されるものらしく、
上に示した写真を見るだけでも「あ、イロイロあるんだな」ということがわかると思います。











建築模型というのは「この土地にどんな建物がどんな環境を伴って建つのか」というタイプのものや
「どんなフォルムをしたものか」「どんな構造なのか」「どうやって強度を確保するのか」「その中でどうやって人が振る舞うのか」などなど
用途によって示すものが大きくスタイルが変わります。
それはつまり「プレゼンテーションする相手によって、素材や解像度の違うものを作る」ということでもあります。
カタチのパワーを示すなら外形を示すのが主目的ですから、素材をそのままそのカタチに削り出したり、貼り合わせたりして作ります。
どんな素材を組み合わせて強度を確保するのかを示すなら、実物に近いテクスチャを持った素材を使ったり、壁はあえて再現しなかったり。
その中で人がどう振る舞うのかをイメージさせたいならば、人物の模型や家具の模型を中に入れて、それを覗き込めるようにします。

つまり、建築模型というのはプレゼンテーションする相手やレイヤーによって解像度や根本的な再現性を変える必要のある模型だ、ということです。
これはプラモデルのような「模型」と大きく違うところです。プラモデルの世界では、内部まで再現した戦車に色を塗って、
それが実在しているかのような汚れを付加することで「リアリティ」を追求するのが「出来の良さ」として評価されます。
しかし、建築模型というのはそうした尺度から見ると「ハンパな出来」のものばかりです。
色が塗られていない、外壁が貼られていない、建物が閉じていない、半分に割れているなどなど……。
しかしそれは「リアリティを足し算で追求するプラモデルとは根本的に目指すものが異なるから」なのだということが直感的に理解できます。











模型を通じて何を伝えるのか、ということについて、プラモデルの世界に住む人はあまり考えていないと思います。なぜなら模型そのものを作ることが「目的」だから。
しかし、建築模型は建築を実現するための手段です。目的を達成するために機能を持たされた、「過程」なのです。
他人に納得してもらうために、ものごと(=建築)の諸要素を分解し、取捨選択して、提示する。これが建築模型の持つ意味です。











しかし、プラモデル的な尺度における「出来」が悪いからと言って、建築模型に魅力がないかというと、そんなことはありません。
そこには(各要素が分解されながらも)合理性が存在し、これを実現したらこんな良いことがありますよ、という意思が込められているからです。
展示されている模型の中にはリジェクトされてしまった幻のプランもありますが、それもまた、ひとつの「思考」だったわけです。











プレゼンテーションには、いろいろなレイヤーがあり、いろいろなアプローチがある。
これは個人的な考えですが、プラモデルにもこういう考え方を持ち込んでも良いのではないか、と思いました。
「実在しそうな縮尺模型」を作る悦びは確かにありますが、そのフォルムだけを楽しんだり、色だけを楽しんだり、質感だけを楽しんだり。
モノの「運動」を示したり、「時代」を示すだけの模型というものは、あって良いはずです。
(それを鑑賞するには相応のリテラシーが必要ですが、そこもコミコミでプレゼンテーションできたら相応の強度を獲得するはずです。)
模型とは概念とフォルムと構造と用途を表すためのメディアであって、理解させるレイヤーによって解像度を変えるものである、ということを理解するかどうかで
「ならば俺は模型で何をするのか?」というのに自覚的になることができる。アタマではわかっていても、なかなか出来ないことですよ、これは。











建築模型の作成方法にも注目です。
昔ながらのスチレンボードや紙を使ったものもあれば、薄いバルサを使ったもの、3Dプリンタを使ったもの、レーザーカットしたプラスチックボードを使ったものなど
時代に合わせ、用途に合わせて選択された手法を見るだけでも非常に勉強になります。
当たり前ですが、カタチを再現し、強度をもたせる(輸送しても壊れないものでなければいけないわけだし)というのはものづくりの根本です。
切断、切削、接着、素材の多種多彩ぶりには感嘆するばかりです。










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建築模型は旅でもあります。
NYの5thアベニューに建つユニクロに、香港のリッツカールトンのバーに、青山のレクサスのディーラーに、自らの意識を放り込んで、覗き見ることができます。
マスプロダクツとして存在する模型もある種の「旅」を内包したものではありますが、
建築事務所が丹精込めて作った一品物の模型の迫力はすなわち「フルスクラッチビルドの情熱」を直接感じ取れるものです。









いま、日本の建築模型は欧米の美術館がコレクションに加えるために国外流出する傾向にあるそうです。
そういう意味で、それを文字通り保管/保存し、広く一般人に(保護ガラスもなしに!)見せてくれる施設というのはこれ以上ない価値を持っていると思います。

あなたがガリバーとなって世界を旅し、建築家の脳内にダイブし、
圧倒的な説得力と正しい模型化のプロセス(=要素を取捨選択され、アイディアが解体/再構築されたたミニチュア)を目のあたりにするのは
建築に興味がなくても絶対に興奮する体験であるはずです。なかにはあなたの知っている建築も出てくるはずです。

ぜひ、現地で、その迫力を味わってください。完全にリコメンドです。夜9時まで開館しているというのも、最高じゃないですか。
(俺はできればここに布団を敷いて寝たい。)

建築倉庫ミュージアム(オフィシャルサイト)





by kala-pattar | 2016-10-15 22:41 | 美術館・博物館