プラモデル界の芥川賞、エブロのモバイルキッチンが最高傑作である話。
2017年 06月 17日
ホテルの部屋から外を眺めると、印象派の画家たちが好んで描いたような昼間の青い空はすでに消えて、薄墨色の夕暮れが街をおおっている。」
プラモデルの側面に書かれた内容物の説明がこんな書き出しだったら、あなたはうろたえると思います。
かく言う私も大いにうろたえました。読んだ端から、うわあああとため息が出てしまった。
改行も段落も無視して、ありえないほど小さな字で、行間もツメツメで書かれたそれは、プラモデルの説明ではなく、もはや随筆です。
恐ろしく詩的で、いままで見たどんなプラモデルよりも「手にとってみたい」と思わせるテキスト。
エブロ 1/24 シトロエン H モバイルキッチンは、以前エブロから発売されたアッシュバンのバリエーションキットです。
読み返してみたら、そのときも私は箱に書かれた能書きを褒めちぎっていたけど、今回はもうそんな生易しいものではありません。
この文章を読んで、ハコを開けて、そこに彫刻されたモバイルキッチンを再現するためのパーツの数々を眺めるだけで、幸せになれる。
だって、最初の2行のその続きを、あなたも読んでみたいでしょう?
そう、アッシュといえばやっぱり移動販売車であって、セイコーマートのデカールを貼ったのも、これを開けばホットシェフを振る舞うクルマになるという妄想から。
ホビーショーのエブロブースで展示されていたキッチン仕様のアッシュを見て、これが発売されたらどれだけ幸せだろう、と思っていたら、発売されてしまったのです。
でもそんな夢は簡単に叶わない。でも、プラモデルならば、パリに瞬間移動してモバイルなカフェを開業することができるんです。
とにかく、模型屋さんに行ってこのプラモデルを見つけたら、ハコの横に書かれたテキストを読んでみてください。
おそらく次の瞬間、あなたはレジに並んで、何色のアッシュでパリに行こうか、どんなサンドイッチを作ろうか、妄想しているはずです。
by kala-pattar
| 2017-06-17 19:16
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