「模型で作った模型の模型」、バンダイのミレニアムファルコンが持つ"パーフェクト"の意味【前編】
2017年 09月 05日
プラモデルを見てこんなに頭が混乱したことはないし、これからもないかもしれません。
とにかく、箱を開けてビニール袋からパーツを取り出し、それを眺めているだけで日曜の午後がまるまる潰れてしまいました。
このプラモデルは単に「ミレニアム・ファルコン」という架空のキャラクターを、設定上1/72スケールにした模型ではありません。
これは、「模型で作った模型の模型」という、これまでにないまったく新しいプラモデルです。
※追記/一般販売されることになったよ!みんな買おう……。
スター・ウォーズ、とくに旧三部作では、登場するメカの殆どが「撮影用のミニチュア(=プロップ)」でした。
コンセプトデザインに従って特徴的なフォルムを形作ってから、こまかなディテールを付け加えて汚し塗装をすることで実在感を演出していたからこそ
それまでのSF映画にありがちだったツルピカの宇宙船ではなく、なんだか本当に宇宙のどこかにありそうな雰囲気を醸し出していたのです。
その、「こまかなディテール」の殆どが市販のプラモデルのパーツを大量に組み合わせ、貼り込むことで作られていました。
しかし、当時の美術スタッフがどこにどんなプラモデルのパーツを貼ったか覚えているわけもなく、そんなメモが残っているわけでもありません。
ですから、スター・ウォーズの劇中に登場するメカがそっくりそのまま欲しいマニアな人達はさまざまな写真資料をじっくりと眺めて
「スタッフが使ったプラモデルのパーツを特定して同じものを買い込み、同じように貼り合わせればプロップとまったく同じものが作れるのではないか?」と考えました。
プラモデルとひとくちに言っても、世界にはおそらく何千何万という種類のプラモデルが存在しています。
このパーツがどのプラモデルのどの部位を流用したものかを特定する作業というのは、気が遠くなるほど面倒なものでした。
先程例示したような写真を見て「これがなんのパーツか」を考える(片っ端からプラモデルを買って探す)のと同じことを、永久に続けるようなものです。
やがてインターネットが発達し、世界中のSWマニアが交流できるようになり、個人が秘蔵していた資料が開示され、事態は少しずつ変わってきました。
2010年代に入ってなお、「SWのプロップ」に関する新資料は"発見"の連続です。
ミレニアム・ファルコンのプロップは実物大から手のひらサイズのものまで、大小さまざまなものが作られましたが、
バンダイが今回挑戦したのは「オリジナル」と呼ぶべき、Ep.4(『新たなる希望』)で使用された全長1.7mのモデルを再現することでした。
マニアはプロップを区別するため、これを単にミレニアム・ファルコンと呼ばず、「1.7mモデル」と呼びます。
パーフェクトグレードのミレニアム・ファルコンは、設定全長である34.75mの1/72スケールという表記でありながら、
本当のところは1.7mモデルを全長482mmに縮めた「3.5分の1のスケールモデル」であると言えます。
つまりこれ、「プラモデルのパーツで作った撮影用プロップのプラモデル」すなわち、「"模型で作った模型"の模型」なのです。
1970年代までに発売されたプラモデルのありとあらゆるメカメカしいパーツが無数に貼り付けられたプロップの模型なのですから、さながらプラモのパーツの博物館です。
本当に過去のプラモのパーツが入っているならまだしも、開発スタッフが極限まで解析し、地球上のさまざまなメーカーが作った
様々なジャンルのパーツを一つずつバンダイが設計しなおして、成形して、売っている。こんな奇妙キテレツなことがあっていいのでしょうか。
しかもそのパーツたちは"実物"の3.5分の1くらいに縮んでいるわけです。なんだそれ。
具体的にどのような解析と設計的手法がとられているかについては、
『ホビー事業部の開発ブログ』に詳しいので是非読んでみてください。門外漢からしたら目もくらむような世界がそこには広がっています。
さて。
正直、バンダイからはすでに1/144のミレニアム・ファルコンが発売されているんですが、今回のはそれを大きくしたのではなくて、まるまるイチから設計し直しているそうです。
そうまでして再現したかったものは、ミレニアム・ファルコンというキャラクターがまとったアウラ(それは実際に存在する"プロップ"に本来宿っている)であり
そのためには「そのために捧げられたプラモデルのパーツ達の御霊と再び契を交わす」必要があったのだと理解しました。
劇中のミレニアム・ファルコンが持つ精悍さもさることながら、プロップが持つ幽玄とも言える雰囲気。
これは「数多くのプラモデルのパーツたちが持っていたそれぞれのリアリティ」が集合することで手に入れられたものに違いありません。
実物があり、それを再現するために分解され再構築されたプラモデルのパーツたち。
これを再び分割して異なる迫力のために供したプロップ。
そのプロップを考古学的に解析し、リバースエンジニアリング的手法で再設計されたパーツ達。
そして、これを組み立ててふたたびミレニアム・ファルコンのカタチにするのは、貴方なのです。
プラモデルであって、プラモデルでない。プラモデルの考古学についての立体論文がついに上梓され、それが43200円で売られていて、誰でも買える。
こんな体験は人類の歴史の中で二度とできないはずです。
世界中の模型ファンのあらゆる思念を鍋でグツグツ煮込んで生まれた最高のスープがここにある。
飲まない理由は、ないでしょう。
後編ではこれを組み立てて現れる景色について語ろうと思います。
by kala-pattar
| 2017-09-05 00:53
| →SPRUE CRAZY