「模型で作った模型の模型」、バンダイのミレニアムファルコンが持つ"パーフェクト"の意味【後編】
2017年 10月 29日
スター・ウォーズに登場するミレニアム・ファルコンというメカは、プラモデルのパーツを寄せ集めて作られました。
使われたパーツがなんなのかをほぼ完全に解析し、そのパーツたちをもう一度設計しなおし、ユーザーが再び寄せ集めて作るプラモデルがここにあります。
これがいかにストレンジなことなのかは、以下のエントリに書きましたのでまだ読んでいない人はぜひ読んで下さい。
はてさて、ようやっと組み上げる時間が取れたので、みなさんにお見せできるところまでやってまいりました。
メチャクチャな集中力を発揮すれば、組み立てに8時間程度、デカールの貼り付けに4時間程度、そこから汚し塗装は好きなだけ、という感じで完成します。
もしもゲートを切り離した痕をひとつひとつ削り、丁寧に丁寧に組み上げたら、軽く1ヶ月は打ち込めるプラモデルだと思います。
そうこうしているあいだにほしいプラモが3万個くらい発売されてしまう現代なので、素早く組んで、素早く納得したい。プラモデルの早食い王に、俺はなる。
なんでチューバッカだけ茶色いかというと、一瞬だけ「塗ろうかな」と思ったんですよね。
ただフィギュア塗るとバリバリやっても4人で8時間くらいかかります。俺は先にミレニアム・ファルコンの全体像を見たい。人生は短い。
選択肢としては「乗せない」「見ない」「あとで塗る」という方法がありますが、俺は最後の「あとで気が向いたら塗る」を採択しました。
(問題は完成するとコクピットバラすのが激しく面倒になることです。
なので、持っている人はJ1パーツ(動体とコクピットへの廊下をまたいで繋がる配管)を途中でぶった切っておくと頭を抱えないで済みます。
あと巨大なダボがかなり強力に噛み合いますので、この辺を斜めカットするなりして着脱を容易にし、最後に接着するなどすればOKかと。)
まず説明書の構成が異常に良くできている。地味なところと派手なところの緩急の付け方、取り付けがブラインド(図ではよく見えない)ということもないし、
向きや位置を間違えないようにあらゆるフールプルーフが盛り込まれているので、誤組立てをする可能性もほぼゼロです。
いくら複雑であろうが、いくら巨大であろうが、「パーツを切って、押し込む」という動作さえできる人間ならば、絶対に組めます。
「そこそこ良いニッパーと、ピンセットがあれば誰でも組める」というのはバンダイ製品の特徴ですが、
この狂ったリサーチに基づく「ほとんどホンモノ」みたいなプラモデルでも同じ思想が貫かれているのには頭が下がります。
全パーツの組み付け強度(これは設計だけでは実現不能なんです)を確認しながら生産工程を詰めていくのを想像すると、気が遠くなります。
「パーフェクト」を名乗る理由はこういうところにもある。
プラモデルなんだから塗装せえよ。ソッチのほうがエラい。という考え方も分かるんですが、
デカールは「実物の塗装の色味や塗装のハゲかたまで完璧に再現したもの」が付属しているんです。わかりますか、このジレンマが。
塗装は自分で調色し、マスキングして、ハゲたところを残すなりあとから塗り足して再現するなりしなければいけません。
もちろん実物どおりにハゲた状態を再現しようと思ったら、資料を見ながら……ということになります。
パーツの形状は完璧にリサーチしてくれているのに、塗装は自分のアンバイでいいのか……これは悩みます。
ということで、バンダイが提供してくれたデカールを完全に信じることにして貼りました。人生が二度あれば、こんどは自分で塗りたい(井上陽水)。
バンダイのデカールは正直品質の高いものではないと思います。
フィルムは薄く、印刷もアミ点がけっこう目立つし、インクの質のせいか柔軟性にも乏しいので、モールドの上にはると追従させるのがめちゃくちゃ厳しい。
世の中にはデカールを強制的に軟化させる薬品なども出回っていますので、こういうのを駆使してビシバシ貼るんですが、正直めっちゃくちゃ大変です。
「組み立て」のフェーズでは器用/不器用に関係なく誰でも組めるプラルモデルなんですが、「色をつける」というのはやっぱり難しい。
バンダイなら成型色で云々〜という冗談のひとつも言いたくなりますが、流石にそれも無理ってもんでしょう。
もしかしたら、「ミレニアム・ファルコン用カラーのペン」とかを使った方が楽かもしれませんが、そんなもんはない。
塗装とデカールは難易度とか使用するHPがどっこいどっこいなので、ここは結構究極の選択だと思います。あなたはどうする。
……ということでPGミレニアム・ファルコンを組み立てたわけですが、こういう物体が実質4日で完成する、というのは本当にすごいことだと思います。
デカい、細かい、というのはプラモデルの本質ではないと思っていました。個人的には「正確さ」だって二の次でいいや、と思っていました。
しかし、このミレニアム・ファルコンだけは「絶対にこれ以上正確なものができない」という意味で、
もうあらゆる人の知識や感情の向こう側に厳然と「正解」を携えて屹立しています。
ありとあらゆるものが完成品になって売られているいま、モデラーはなぜプラモデルを作るのでしょうか。
それはおそらく、あらゆるモデラーが「俺のほうがアイツより良いものを作れるかもしれない」という自分の可能性を信じているからです。
自分のほうが、実物への知識が豊富である。自分のほうが、より細かい工作ができる。自分のほうが、より実物に近い塗色を再現できる……。
それは実物やイメージの再現であると同時に、自己表現でもあります。
しかし、バンダイのミレニアム・ファルコンはそういった可能性をある意味で拒絶する究極の一品です。
ミレニアム・ファルコンにはガンダムと違って、1.7mのプロップという「ホンモノ」があります。
そこにどんなプラモデルのパーツがどう使われているのか、これを開発した人たちは知悉しています。
言ってしまえば、これ以上の資料がこの世にないんですから、どんな人でも、組み立てるだけで「絶対にこれ以上ない精度のレプリカ」が手に入ってしまう。
これはプラモデル界のシンギュラリティです。「表現」と「再現」の価値をひっくり返してしまうかもしれない。
戦車や飛行機やガンダムのプラモデルを組みながら貴方が何処かで考えている「表現」を飛び越えて「再現」というパラメーターが異常に突出したプラモデル。
史上おそらく最も巨額の資金と手間をかけて作られたプラモデルとして、確実に後世に語り継がれることは間違いありません。
これを超えるには、いったいどんなアイディアや努力が必要なのでしょう。ぜひ貴方も組んで、その強力なフォースを感じてみてください。
ヤヴィンからは以上です。
by kala-pattar
| 2017-10-29 22:30
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