カーモデル・イズ・デッド。それでもあなたがプラモを作る理由。

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▲スズキハスラーの内装のヒラキです。個人的にはこれ、ランナーオブジイヤーをあげたいです。


アラレちゃんとももクロのCMでメロメロになっている全国8億人のしんどいおじさんの皆様にお届けする。

日本の21世紀、核家族化した郊外の娘や息子は軽自動車を買い与えられ、それに乗ってコンビニへと買い物に行く。
ドーナツ化現象は進み、スーパーカーの売上は落ち続け、ユーティリティーカーだけが存在感を増していく。
そんな世相を反映してかどうか知らんけど、カーモデルの雄、青島文化教材社がハスラーのプラモデルを発売した。


カーモデルの標準スケールである1/24を捨て、ひとまわり小さい1/32スケールで立体化されたハスラーの箱には「楽プラ」の文字が踊る。
「塗装済みプラモデル」とAmazonの製品名には書いてあるが、これはフェイクであり、いわゆる「色がついたプラスチック」で構成されている。



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▲ボディはこんなに小さい。モールドはそこそこシャッキリしており、塗装して仕上げる人にも満足なディテールだろう。



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▲ホイールサイドのモールドもこまかい。ふつうはホイールと一体で成形されているもんだと思うが……


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▲何を隠そうこのモデル、ホイールとタイヤが硬いプラスチックで一体成型。ゴムタイヤをハメる仕様とはなっていない。金型の制約上、トレッド面はつるつるだ。


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▲シャシーはただの板とタイヤハウスが一体。裏もツルンツルンで、青島文化教材社のロゴマークがドンと彫刻されているのみ。


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▲とにかくこまかい色分けはシールにすべて任されている。紙シールなので伸縮性に乏しいが、カッティングの寸法精度はかなり高い。


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▲ダッシュボードやドアポケットにシールを貼り、ハンドルを取り付けてからヒラキになった内装の四隅を折りたたんでいく


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▲シートの裏はごっそりと肉抜きされている。スライド金型などという凝ったことはせず、ひたすら前方から覗き込んだときの意匠を優先した設計。


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▲車軸もプラスチックパーツ。細かいディテールの入ったホイールにもシールが貼られ、ディテールはのっぺりとしたメタリックな紙の裏側に隠れてしまう。


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▲ボディにもあらゆる角度からシールを貼って、トリムや屋根、樹脂パーツの色合いを再現していく。屋根のシールを貼る順番を間違えて、黒ラインが隠れてしまった。


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▲接着剤は不要。シール貼りに異常な集中力を要したため、組み立てには40分ほどがかかった。オッサンは1/24スケール。これくらいの対比が個人的に好きなのです。


とにもかくにも、「キレイにシールを貼る」という作業はとても難しい。曲面に紙シールをなじませながら、各部のチリを合わせるのが大変だ。
しかし、心を無にしてシールをペタペタ貼っていくのは楽しい。塗装するほうが簡単なのではないか、というところもあるが、それはそれ。
このプラモデルは「接着剤も塗料もいらない」というスタイルを「それでいい」と思える人が選択することを想定した製品だからである。

近づいてみれば、シールのチリが合わないところや、ツルツルのタイヤが目立つ。しかし、それは「普通のカーモデル」を知っているからこその視点。
このプラモデルの解像度というのは、おそらくこのくらいの距離で見たときに「おお、ハスラーのミニチュアだ」と思える、というところに設定されているのだ。


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▲ほら、「自分で作ったプラモ」がこうしてポンと置いてあり、1m離れて見るぶんにはなんの問題もないのだ。


シールの精度は高いので、シールをマスキングシート代わりにして塗装するのも一興だろう。
……とか書いてしまう自分のモデラー根性にはほとほと呆れてしまう。

アオシマはこのシリーズでハスラーとプリウスを展開している。
ここでNSXだランボルギーニだと言わず、徹底して「その辺を走っているフツーのクルマ(=知名度が死ぬほど高い)」を狙っている。

プラモを作らない人は、塗料を持っていない。接着剤も持っていない。
でも何かの拍子に(ガンプラくらいは作るよ、という人が)模型屋でプリウスやハスラーのプラモを見かけ、
なんだかシール貼るだけで完成するらしい、と知ったら、おそらく買うだろう。その行動は、まことに正しい。
この車種選択をし、マニアやエンスーときっぱり決別してでもこの仕様で行くのだ、と決断したアオシマもまた、まことに正しい。


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そういうことをツラツラと考えていると、ヒラキになった内装も、プラの車軸も、異常な量のシールも、なんだか愛おしい。
フジミやタミヤも似たようなトライアルをしているけど、どこかにプラモ屋としてのプラモ的プライドを隠し持ったアイテムであったように思う。
ここまでキッパリと「非プラモユーザーを向いたプラモ」を製品にするド根性に、私はなんだかシビれてしまったのである。
その勇気は、なかなか持てるもんではない。


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カーモデルの新製品が3000円だ4000円だというこのご時世に、アオシマ製ハスラーのお値段は実売で約1300円。
Amazonをザーッと覗いてみると、同じハスラーをモチーフにした製品がいっぱいある。
チョロQやトミカなら数百円。これで得られる満足感だって相当なもんである。
まして、スズキから正規にライセンスを受けた1/20のラジコンカー(もちろん完成していて、塗装までされている)が2000円かそこらで買えてしまうのだ。

このように価格や大きさの選択肢が豊富で、そのほとんどが完成品であることを考えると、クルマプラモのアドバンテージは本当に小さい。
それでもクルマのプラモを作りたいんだ!という人は、おそらく少数派だろう。
カーモデルを美しくツルツルテカテカに仕上げる技量だって、万人が持ち合わせているわけではない。
でも、バラバラになったパーツを自分で組み合わせ、目の前で自分の好きなものが形になっていく時間はかけがえのないものだと思うのである。

願わくば、エンスージアストが好む尖ったクルマのプラモデルだけでなく、こうした親しみやすいクルマのプラモデルの血脈が絶えないことを。
アオシマのハスラーを組みながら、そんなことを考えたりした。



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by kala-pattar | 2017-12-02 01:10 | プラモデル