『モビルスーツバリエーション』という"呪い"に対峙した編集者の話

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あさのさんの話を書いているとそれこそオレが一冊本を書かなければいけないくらいの濃密なアレがあるので(なんせ私の名前も奥付に載っている……)、
ここではこの本のことだけを客観的に書こうと思います。



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本書は1980年2月から1985年10月まで、ガンプラが誕生して灼熱のブームとなり、MSVと呼ばれる企画が出現して枯れ果てるまでのルポです。
上のような見開きを見てしまうと、「お、カタログかな?」という感じですが、この本にはほとんど図版がありません。
ぎっちぎちにレイアウトされた図版と目もくらむような量のキャプションこそが「あさの編集」だと思ってると、ちょっと拍子抜けします。

この本では全編に渡って、何年何月になにがあったのか、誰と誰がどういう会話をしたのか、どの会社がどんなアクションを取っていたのかを取材し
さらに世の中のできごと(流行歌、事件、映画の封切りetc.……)を補助線として「うろ覚えではない、当時の本当の景色」をスケッチしています。

アニメのグッズとして展開されたガンプラがいつしかコンテンツの終焉に直面し、
周辺にいた人々のビジネスと策略と思惑と趣味と情熱が渦を巻いて、プラモデルがコンテンツを牽引する側に回ったということは
『モビルスーツバリエーション』の起こりと展開についてのなんとなくの共通認識として、これまで数多の本で語られてきたことです。

しかし、当時のコミックボンボンと模型情報と周辺の書籍やムックが何年何月に発売され、どの号にどの画稿が掲載され、どの作例が誰によって作られたのか。
その解説の内容の前後関係やライターの違いまでもを整理して「この順番で物事が考えられたはずだ」というのを
ここまで詳細に洗い出し、整理し、まとめた記録はなかったはずです。


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プラモをとりまく言説は時としていい加減です。
著者のあさのまさひこという人だって、人間ですから、記憶違いもあれば、当時接することのなかったメディアもあります。
熱狂した、自分が当事者だった、なんならユーザーがプラモを育てたと錯覚できるほどの、お祭り。
それを紐解いて、あれはなんだったのかを適当な思い出話ではなく、事実(と少しの推測)を順序よく並べていくことで
「発見」ではなく「徹底的な整理」をした本が、本書の特徴だと言えるでしょう。

正直、「いま、明らかになる衝撃の事実」というのはありません(いくつかの「おお、そうだったのか」はあります)。
ですが、MSVというプラモデルシリーズが後世のコンテンツビジネスやガンダム、ガンプラに与えた影響はどう考えても巨大です。
「"MSVに呪われた男"、あさのまさひこ」は、それがうろ覚えや俗説だけで語り継がれることに耐えられなかったのだと思います。

人間が「自分だけにかけられた呪いを解く」と、本になる。その呪いの正体は、自分だけにしか解き明かすことができない。
かつて廣田恵介という男がプラモの金型に彫られたパンツに対峙したのと同じように……というよりも
あさのまさひこによる返歌がこの「MSVジェネレーション」なんだろうな、と勝手に思っています。

もちろん、モビルスーツバリエーションのような
「自然発生的に見せかけながら、ステークホルダーが陰に陽に共闘してコンテンツをいい感じにスピンオフさせ、マネタイズする」という手法は
現在の版権ビジネスのあり方のもと(一元的に管理された版権、"監修"という名の統制etc.……)では生まれ得ないものです。
逆説的に言えば、コンテンツとマネタイズの関係(マーチャンダイジング)に対する意識が今ほど明確化されていなかった時代だからこそ
MSVのような企画は成立したし、成立したからこそ、「なるほど、こうすればいいのか」という気づきが生じたのだと思います。
そう、MSVそのものがコンテンツビジネスとホビー商材の現在的な関係を生むひとつのきっかけになったとも言えるでしょう。

本書はあくまで「メディアとプラモデル」「その裏にいた仕掛け人」にフォーカスしたルポなので、「いま役に立つこと」はひとつも書いてありません。
しかし、30数年前にあった熱狂をきちんと解体し、文字にして一冊の本に残したことの功績は大きいと思います。
こういうこと、プラモに限らずいっぱいあると思うんですよね。ちょっと昔の、サブカルチャーに起こったことの記録。
誰かがやらなければ都市伝説になってしまいますから、やっぱり最後まで調べ抜く意思というのは、貴重なのです。お疲れ様でした。





by kala-pattar | 2018-05-20 21:50 | Movie&Books | Comments(0)
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