君は自転車でレールの上を走ったことがあるか。

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積もり積もった話がありすぎて、行く行く詐欺にも限界があった。この秋がそうだろう、と決めるに足るいろんなきっかけが存在した。
なので、大学の後輩でありながら、人生で最大級にリスペクトしている大切な友人に会いに岐阜は神岡へ行くことにしたのだった。
金曜の仕事がハネてから中央道をかっ飛ばして、真っ暗な釜トンネルの前を左に曲がり、そこからすぐだろうと思っていた俺が浅はかだった。

90km以上もある真っ暗な峠道をウネウネウネウネ運転してたら、日付は変わっていた。
お土産の酒を渡すと、彼女は手作りのツマミを次から次へと出してきて、話は尽きることがない。
やにわにビエエ、と鳴き声がして、のそのそと起きてきたのは初めて会う2歳の次女だった。
そう、友人は立派に会社を切り盛りしながら、二人の女の子を育てる肝っ玉母ちゃんでもあった。

人生初の神岡の街は、朝日の中で雨に濡れ、ねずみ色をしていた。
2歳と5歳のお姫様と朝ごはんを食べて、わいわいと着替えてからクルマに乗って、旧奥飛騨温泉口駅へと向かう。ガッタンゴーというものに乗るらしい。

受付を済ませ、ヘルメットをかぶって簡単なブリーフィングを受けていると、雨は止んでいた。
2台の電動アシスト自転車を鉄パイプで作ったフレームに固定したマシンで、廃線となった神岡鉄道神岡線の軌道上を走る。
ふたりのオトナが、ベンチシートに座った美女たちを乗せて鉱山の町の錆びついたレールを往く。
その姿はまるで、イモータン・ジョーの駆る「ギガホース」のようであった。



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▲金属製車輪の車台に固定された電動アシスト自転車の後輪で駆動するので、大して力を入れずともグイグイ走る。


コースは奥飛騨温泉口駅跡から神岡大橋駅跡、飛騨神岡駅跡を経由して、神岡鉱山前駅跡へと至る2.9kmを往復するもの。
全区間が単線だが、営業時にも交換可能であった神岡鉱山前駅だけが大きく開けており、レールが何本にも分岐するヤードが広がる。


DSC_5629▲前後の鉄輪がレールの継ぎ目を踏む「タタン」という音は、ホンモノの鉄道で聴くそれと全く同じ。


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▲ポイントに差し掛かると、複雑な音とともに大きく横Gがかかって進路が変わる。なるほど、これが鉄道の気持ちなのか。



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▲痛ましい公害の記憶を抱えた神岡鉱山。現在でも亜鉛の精錬をしている。見えないが、スーパーカミオカンデもこの一帯に沈んでいる。


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▲神岡鉱山前駅のホームに上がり、一旦休憩。機回しは人力で行われる。


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▲谷あいの街を眺めながら、ジョイント音と摩擦音が響く。なるほど、「ガッタンゴー」だ。


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▲曲がった隧道は暗く、湧水に洗われた壁面にジョイント音がこだまして失神しそうになる。極度の興奮状態。


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▲隧道出口、目が暗闇に慣れたころに起きる露出の変化と反響する音の変化は筆舌に尽くしがたい。とにかくこれは体験するしかない。


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▲駅ホームをこの高さで眺めるということ。


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▲リアルな人の暮らしを、道路ではない角度から間近に眺める不思議な気持ち。


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▲急勾配の斜面にへばりつき、川に呑まれないよう必死な町並みを眺めて鉄路は伸びる。


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▲この景色はいま手を付けているNゲージレイアウトにも活かそう。こんな速度で、つい最近まで走っていた鉄道のリアルなディテールを見ることはない。



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▲ようよう出発地に戻ってきた。最後にもう一度、転轍機のリズムを尻で感じ取る。


……ということで、この「レールマウンテンバイク Gattan Go!!(ガッタンゴー)」というアクティビティは極めて貴重な体験であり、
安全確保についても「必要最小限ながら万全」というめちゃくちゃいい感じに仕上がっていました。
自己責任と懇切丁寧な保線や機器点検のバランスによって、ナマの鉄道と自分のケツとが直接コンタクトするという夢空間になっています。
岐阜というか、もはや神岡はこの線路をちょろっと行けば富山県というなかなかにエクストリームな立地なのですが
もしも興味があるなら絶対に行くべき。なくても行くべき。それくらい良かったです。幽体離脱するかと思ったもん。

今回楽しんだのは「まちなかコース」でしたが(それでも景色がめちゃんこいいのに)、現在は漆山駅跡から二ツ屋トンネルを往復する
渓谷コース(6.6km)が設定され、そちらもなんだか尋常じゃない様子ですので、シーズンオフになる前にダッシュで行こうと決意したのでした。
みなさまも、ぜひ。





by kala-pattar | 2018-09-18 00:09 | 行ってきた