人間のプラモを組んで現実から逃れる

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お年賀的な感じで、インターネットの友からロードスターのプラモを頂いた。
せっかくなのでその友が乗っているエターナルブルーマイカという色を再現してみようと思い立って調色し、
まあまあいい色味になったのでブーッと吹いたところ、エアブラシの中のカスとホコリが盛大に塗装面に付着して世界は終わったのだった。
美しく均一で艶のある塗膜を得ようと思ったら、人間は自宅の中にクリーンルームを作り、全裸で塗装する必要があるようだ。


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たまごんという男がいる。「東海にたまごんあり」とモデラーの中では伝説になっている変態である。
昨年の夏、東京に出張に来るというので会ったこともないのに酒を飲もうと誘ったところ、門前仲町近辺に宿を取ったと言う。
彼の仕事が終わってから、オレの仕事が終わるまで少しタイムラグがあったので、ただ待たせるのも良くないと思って近所の模型店を紹介した。

モビルスーツとティラノサウルスや佃煮屋を合体させる、顔も見たことのない男。
大汗をかきながら待ち合わせ場所にたどり着くと、果たしてそこにはプラモのハコをむき出しで持った、華奢で長身な青年が立っていた。
「からぱたさんにプレゼントするプラモを探したんですが、これがいちばんいいかなぁと思って。」
居酒屋に入るなり彼はそう言って、机の上にアカデミーの1/35 フランス外人部隊セットを渡してきた。


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いくらなんでも裏面の塗装見本が稚拙すぎる。
蛭子能収の漫画に出てくる人間のような、生気を失った巨大な目を見た瞬間にオレはそのプラモから興味を失っていた。
そこから我々は冷やしピーマンとマカロニサラダ、そして豚の臓物を焼いたものを延々と貪り、
初対面とは思えぬほど様々な話をした。狂った夜だった。


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ホコリと前に吹いた塗料のカスをたっぷり噛み込んだクルマのボディを眺めていると、ふとその夜のことが思い出されたので、
クルマのボディは改めてどうするか考えることにして、フランス外人部隊セットのハコを棚から引っ張り出してきた。
こういう日は、失敗を忘れるために無心で何かを接着するのが正解なのだ。


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ランナーを眺める。
驚いたことに、そこにはなかなかシャープな彫刻の腕や脚が並んでいる。
顔をよく見てみると、彼らは塗装見本の写真とは比べ物にならないほど精悍な顔をしていた。


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6体のフィギュアの時代設定はまちまちだが、コーチシナ、アルジェリア、ジブチ、チャドの出身で、
それぞれの人種の違いを感じさせる顔つきとユニークなポーズ、そして服装の違いと火器類の違いが一箱で楽しめるおせち料理的な内容である。
こういうのを何も考えずに組んで、いつか塗装しようと机の隅に置いておくのがプラモデルの楽しみのひとつである。
いま塗らなくてもいいし、いつかホコリまみれになって愛着を失ってもいいし、なんなら金色に塗ってガンダムに貼り付けてもいいのである。


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人間のプラモは、ぱっぱと手を動かすだけでそこに人間が出現するのがおもしろい。何人いてもおもしろい。

たまごんならば、このフィギュアたちに何をさせるだろうか。
次回、たまごんが上京したら、この組んだままのフィギュアを肴に酒を飲もうかなと思う。


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■ちなみに
パッケージ裏面の塗装見本が微妙に見えるのは、じつは「目を描く位置」を間違えているからなんですね。
これだけディテールがしっかりしているのに、どうしてリアルな人間に見えなくなってしまうのか。
そこらへんを超わかりやすく解説した本を昨年末に得たので読んでいたところ、1/35のフィギュアってめちゃくちゃおもしろいなと思ったのです。
読むと絶対に手当たり次第1/35のフィギュアを組みたくなり、そして塗ってみたくなる魔法みたいな本なので、興味があったらぜひ目を通してみてください。
1/24とか1/20のフィギュアの塗装にも役立つ内容で、あなたの模型ライフに文字通り「人間味」が増すこと間違いなし、であります。







by kala-pattar | 2019-01-08 00:23 | プラモデル