プラモ業界の売上高を読み解いて気づいた「ガンプラブーム」「ミニ四駆ブーム」という幻想。

プラモ業界の売上高を読み解いて気づいた「ガンプラブーム」「ミニ四駆ブーム」という幻想。_b0029315_21222443.jpg

■2/2追記
結論がありながら、これをしっかりと書かないことは自分の悪い癖だと思う。
初稿に対してさまざまなツッコミをいただき、それをいろいろ読んだ上で「たしかにそうだ」と思ったこと、
それをもとに「このエントリで何がいいたかったのか」を整理して、何点かを修正した。
また、※印の部分で論点をクリアにするための追記を行った。

今日、人と話していてたまたま「プラモを買ってる人たちと本当に塗って作っている人たちの数ってどれくらいなんだろう」という話題になった。
プラモの販売個数というのはなかなか開示されないもんで、自分が仕事として携わっているのは分かるけど、総数となると全然わからん。
まして、それがユーザーの手に渡ったあと「本当に塗って作ってますか?」みたいなのはアンケートでも取らないとわからない。

なにより、ガンプラを買う人というのは広範囲に渡りすぎていて、ガンダムグッズとして年に1〜2個買う人もいるだろうし、
毎日ガンガン組み立ててて塗らずに飾っている人もたくさんいるだろう(新製品の発売ペースがすごいので、組むのでも精一杯のはずだ)。
で、実際にスプレーやエアブラシで塗装して、自分だけの作品に仕立てている人というのは絶対数こそわからないものの、割合としてそう多くはないだろう。

飛行機や戦車は製品状態で色が付いていないものがほとんどだが、色を塗って組むとなれば最低でも数日はかかる。
ツイッターやブログで完成品を見せている人もいるし、ひっそりと誰にも見せずに楽しんでいる人もいるだろうが、
少なくとも日々のニュースやTwitterでのバズり方を見ていると、何万人、何十万人がワッと盛り上がるような趣味でもないように見える。

結論として、よくわからない。なんだかしらんが、「プラモはいま、全然売れない」と愚痴っている人もちらほら見かける。
本当だろうか。データとして何が使えるか気になったので、ググった。



プラモ業界の売上高を読み解いて気づいた「ガンプラブーム」「ミニ四駆ブーム」という幻想。_b0029315_21293664.jpg
▲2010年から2015年上半期までの、プラモの出荷指数である。(出典/経済産業省ウェブサイト


出荷指数というのは出荷数や売上額そのものを示すのではなく、どれくらい景気がいいかを示す指標を計算したもの。
計算式はそんなに難しくないのでググってほしい。

これだけ見ると「2010年代はプラモが右肩上がりで売れているんだなぁ」という感覚になる。
ここ数年のプラモ売上の拡大にはガルパンも寄与しただろう。艦これも寄与しただろう。そういうふうに考えるのも自然なことだ。
経済産業省のコラムによれば、この好調ぶりの理由を「ミニ四駆ブームを背景にして」とあるが、果たして本当だろうか。
もっと長いスパンのグラフを見てみよう。


プラモ業界の売上高を読み解いて気づいた「ガンプラブーム」「ミニ四駆ブーム」という幻想。_b0029315_21381855.jpg
▲1975年から2013年までのプラモデルの出荷額(卸値に個数をかけたもの)。(出典/経済産業省ウェブサイト


画像がやや小さいが、ガンプラブームがあって、ミニ四駆ブームが3回あって、現在はじわじわ上げているという説明が付いている。
それぞれの出来事は実際にあったこととしていろいろな書物で読むことが出来るが、本当だろうか。

ガンプラの発売は1980年。1981年にその人気に火が付き、1980年代なかばにはブームが沈静化したとするのが定説である。
月産数百万個、4年で累計1億個売り上げたガンプラだが、
上のグラフを見るとガンプラの出荷数がピークアウトしたとされる1980年代後半に業界全体の出荷額が大きく躍進していることがわかる。


プラモ業界の売上高を読み解いて気づいた「ガンプラブーム」「ミニ四駆ブーム」という幻想。_b0029315_21463813.jpg
▲ガンプラの出荷数のグラフ。(出典/『ガンダム神話』ダイヤモンド社刊


グラフを見比べれば分かる通り、ガンプラが死ぬほど売れた80年代前半に、プラモ業界全体は40%程度しか成長しなかったのである。
このことについて少し調べると、非常に興味深い考察が見つかった。

こちらはブシロードインターナショナル社長の中山淳雄氏によるコラムである。重要な部分だけ引用しよう。

「81〜83年が初代のガンプラブームですが、模型業界全体でみれば90億程度から100〜140億と1.5倍程度に売上がのびたにすぎません。」
「1986年から突然300億、そしてうなぎ上りにあがる市場は1989年で450億超えを迎えます。
たった5年で市場を4倍程度まで押し上げた立役者、それこそミニ四駆なのです。」
「コロコロ全盛期の80年代というのは特別な時期です。
14歳以下の子供人口は戦後を除くと団塊世代の子供たち、つまり1980〜85年は3000万人弱と日本で最も子供の多い時代でした。」

ここだけ読むと「ガンダムはたいしたことないが、ミニ四駆がすごかった」と読めてしまうかもしれない。
しかし、昨年4月1日時点での14歳以下人口は1553万人と推計されており、いまから35年前というのは"子供"がいまの倍ほどいたのである。
モデラーが多かったのではなく、絶対的に「モデラーになりうる人間の数」が多かったのだ。
もちろん、「もっとゴージャスなものを!」というニーズに合わせてプラモの単価が上昇したことも、全体の売上高を押し上げるのに寄与したはずだ。

※ここまでで本来なら結論を言うべきだった。
「案外、感覚で語られている"◯◯ブーム"と売上高のグラフは連動していない。グラフに付けられたコメントも時間軸を勘違いしている。」
「だからこそ、僕らも、業界全体の好調不調や、"◯◯の流行り廃り"というときには気をつけるべきだ。」
「そして、上記の勘違いをベースに机上の空論で改善案を考えてもトンチンカンなことを言うことに繋がるだけだ。」

さらに忘れてはならないのが、日本全体の景気の動向だ。
話を簡単にするため、日経平均株価を見てみることにしよう。


プラモ業界の売上高を読み解いて気づいた「ガンプラブーム」「ミニ四駆ブーム」という幻想。_b0029315_21542499.jpg
▲1970年から2018年までの日経平均株価。出典/Wikipedia


1975年から上昇に転じた株価が90年に鋭いスパイクを形成し、一気に下降に転じている。いわゆるバブル景気とその崩壊だ。
子供がいまの倍の数ほど存在して、さらに世の中全体は好景気であった80年代。そりゃホビー業界はウハウハだろう。
ミニ四駆も確かに売れたかもしれないが、自分が子供の頃を振り返ってみれば、プラモ状の玩具のバリエーションたるや、とんでもないものがあった。

ふと思い立って、株価とプラモの出荷額のグラフを重ね合わせてみる。
するとこうだ。


プラモ業界の売上高を読み解いて気づいた「ガンプラブーム」「ミニ四駆ブーム」という幻想。_b0029315_21584254.jpg
▲横軸のスケールを合わせた。赤がプラモの出荷額、青が日経平均株価である。2013年以降の出荷指数を加味しても、強い相関が見える。


身も蓋もないことに、プラモの出荷額と日経平均株価(=景気の良さ)は悲しいほど連動している。極めて似た動きを見せている。
ガンプラはブームになったかもしれない。ミニ四駆は売れたかもしれない。だから日本の景気が良くなったのではない。
景気が良くなったときと、ガンプラやミニ四駆が売れたときが重なっていたことは大きな意味を持っているはずだ。
これは単に「好景気によって趣味に出すことのできる可処分所得が増えたから」と置き換えても、何ら問題ないのではないだろうか。

※初稿では言いたいことが明確にあったにもかかわらず、蛇足が過ぎた。
日経平均株価のピークと日本人の可処分所得のピークは大きくずれていて(後者は1997年前後と見られている)、
それがそのままプラモの消費量と直結するわけではないことが明白だという指摘をいただいた。これはそのとおりだと思うので、訂正する。
もちろん新しいプラモの企画(や、そのもとになるコンテンツ)のタイミングは当然ながら株価や可処分所得と直接連動するわけではないが
「景気のおおきなうねりと生活必需品ではない趣味の商品の売上高に相関がまったくない」と断定するのはナンセンスだと思う。

もっと言ってしまえば、ガンプラに端を発するリアルロボットプラモ全盛期と比べても、今のプラモの出荷額というのはそこまで悪くないように見える。
少なくとも、「ガンプラブーム最盛期」より、いまのほうがプラモ全体の出荷額は上回っているとグラフが示している。

※もちろん、多くの人から指摘があったとおり、物価や人件費の推移、プラモに求められるクオリティの変化よって単価は上昇し続けているし
キャラクターモデルに飛びついた子供の人口は大きく減ったたため、ユーザーの年齢層は上がっている。
個人経営の専門店の数などは減少しているので「空気感として衰退している感じがする」という印象を多くの人が持っているのだろう。
しかし、これはシーンの「悪化」ではなく、あらゆる趣味/余暇のビジネスにおいて共通する「変化」であると考える。

理由はいろいろあるだろう。プラモの単価は80年代よりも高くなっている(そのぶん皆の給料も、その他の物価も上がっている)。
皆がこぞってスーパーに買いに出かけるようなプラモはそうそう見なくなってしまったが、しかし家電量販店にはプラモの箱が溢れかえっている。
毎日毎日多くのプラモの予約開始告知がSNSを流れていき、毎日毎日いろんなプラモの購入報告が目に飛び込んでくる。

プラモは死んでいない。立派に売れていると思う。
「プラモが売れていない」というのは嘘である。正しくは、「一つのプラモが狂ったように売れる時代ではない」ということだ。
どこのメーカーも大変だと思う。金型を作っても、昔のように一発で儲けられる商売ではなくなったのかもしれない。
さらに、子供が爆発的に増えたり景気が突然絶好調になることはないというのを皆が嗅ぎ取っているから、みんながどこかに閉塞感を感じている。
初心者を誘引しよう、安価で簡単なものを作れば何かが変わるのではないか。そういう意見を言いたくなる気持ちもわかる。

だけど、景気の善し悪しとの相関がぶっ壊れるほどの「ブーム(熱狂的な流行)」というのはなかったのだ、というグラフを見て、オレは少し安心した。
大事なのは、いまあるプラモを楽しんで、新たなるチャレンジに期待して、子供を生んで選挙に行ってガシガシ働くことなのだろう(身も蓋もない!)。
幸い、プラモ屋さんにはプラモがいっぱいある。いまあるプラモの悪口を言っていても、景気が良くなることはないのだ。

……結局、プラモユーザーの総数も、本当に塗って完成させている人の数もわからなかった。
けれど、こうした思索を通した結果、これだけは言える。
80年代後半、プラモは売れていたが、景気も良かったのだ。懐かしプラモの纏うオーラは、日経平均株価の纏うオーラでもある。
当時が黄金期に思えるかもしれない。しかし、現在のプラモやそれをとりまく環境をないがしろにしていい理由にはならないと思う。
メーカーが変化しないで、狂乱の時代と同じ売上がキープできると思っているとしたら、それもおかしいと思う。

プラモは楽しい。
「お金を払って遊ぶのだ!」という熱の総量はいつの時代も変わっていない。
ひとりひとりが「プラモは楽しい!」ということを伝えること。そして、メーカーは次の時代に向かって面白いことを考えること。
怪物のようなコンテンツは、いつか自ずと現れる。いまは「おもしろいじゃん!」と思う人を巻き込む以外、すべて無意味だ。

※感情的な「いまはもうだめだ、昔はよかった」「昔に回帰すれば、もっとよくなるはずだ」という嘆きを読むのは楽しくない。
だからこそ、あなたのいまブームを、教えてほしい。何が楽しいのかを、僕も書き続けたいし、あなたが楽しいと思ったことも、読みたい。
それをきっかけに新しいプラモに触れてみたい。

他力本願では、なにも変わらない。自戒を込めて、こう結んでおくことにしよう。




by kala-pattar | 2019-01-30 22:37 | プラモデル