「色分け済み、接着剤不要」って、幸せなプラモの絶対条件なんですかね。

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「ちょうどいいプラモ」ってなんでしょうね。オレの場合は「パーツ数がちょっと多くても、サクッと組めるし塗装もしやすい」がうれしい。
少なくとも「完成するだろうな」という感じはほしいし、実際組んだら「できる!オレにもできるぞ!」と思いたいじゃないですか。
で、フジミというメーカーから発売された「車NEXTシリーズ」というブランドのFJクルーザーを勉強のために買ってきたわけです。



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▲「不要!!」って二回書いてあるけど、現在のガンプラだとこれが当たり前じゃないですか。


なんつーか、パーツが色分けしてあるから塗らなくていい、スナップフィット(押し込むだけでパーツが固定される設計)だから接着しなくていい。
それはコンセプトとして分かるんですけど、つまりそれって「塗りたくねーし接着剤とか持ってないし」みたいな人をペルソナに設定してるわけですよね。
「不要!!」ってなんか圧が強くて、オレみたいな人間からすると「接着とか塗装は奇人のやることだって言われてるのかな……」みたいな気持ちになりますが、
まあこうしたほうがセールス的に強い、と判断したんだろうからそれを飲み込むために組んでみるわけです。


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▲シャーシの彫刻、深くてキレキレで見ているだけでシズル感たっぷり。ここは素直にすごいと思う。


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▲テロテロの艶、透けのない黄色。このように塗れと言われたら、ほとんどのモデラーも身構えるでしょう。このパーツも素晴らしい。


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▲ルーフのホワイトも透け感いっさいなし。ピッカピカの艶で、これまた大変によろしいですね。


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▲ストップランプやウインカーも塗るのが大変なので、こうして着色されたプラスチックだとすっごいありがたい。これも100点です。


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▲スモークって塗るのむずいんですよ。窓がスモークなのも超いい。


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▲窓枠塗り分けるのってすっげえ大変なんですよ。マスキングとか。窓枠が別パーツ、500点ですね。親切だ。


説明書には塗装指示も一切なく、とにかく手取り足取りそれはそれは丁寧にパーツを切って組み立てていくさまが淡々と記載されています。
どっこい、組み始めたらこれがもう信じられないくらい難しい。
難しいというのは、押し込んだはずのパーツがポロッと落ちてしまったり、力のかかる車軸が大層貧弱な構造だったり、
パーツがどこまで押し込まれていれば定位置なのか分かりづらかったり、とにかく「接着したほうが早いんじゃないのこれ」というところが多い。
……というか、接着剤使うところは使ったほうが絶対楽だし早く終わります。

プラモをより組みやすくしよう、ということを考えたときに、接着しなくてもいいよとか塗装しなくてもいいよというのは確かに一理あると思うんですけど、
それは「あなたにもきっと組み立てられる!ゴールできる!!」ということが大前提にあるべきで、
「接着剤がいらない」というのが一元的にプラモの価値を高めるんじゃなくて、「簡単に組み立てられる」ということがこの場合は価値だと思うんですね。
だから、所によって(小さいパーツだったり、強度がほしいところだったり)は、「接着してね」って素直に言ってもいいと思うんですよ。
接着剤って安いし、いまは高性能な流し込み接着剤とかいっぱいあるし、
なによりこのクルマを作ったユーザーが次に作るプラモは「接着剤が必要なもの」の可能性のほうが高くないですか?とすら思うわけ。


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▲できた。過程は置いといて、出来はバッチリ。ルーフのキャリアはピンバイスと接着剤が必要で、これを「ディテールアップ」って説明書に書いてあったのでぶったまげた。


で、こんなことを考えながらフジミ製のスーパーカブもなんか気になってたので買ってきたわけですよ。
こんど出るフジミ模型 1/12 NEXTシリーズ No.1 ホンダ スーパーカブ110というのが上記FJクルーザーと同じように塗装不要、接着不要のスタイルで、
現行モデルのスーパーカブを立体化するらしいのですが(これも細かすぎて組めない!みたいなことにならないことを願います)、
現状売られている「接着や塗装が必要なスーパーカブのプラモ」というのは以下のような感じになっておりました……。


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▲ハコです。おお、スーパーカブが作れるのかと思うじゃん。


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▲「このキットに使用可能な塗料の色番号」と書いてある。「このキットに必要な」ではないのね?


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▲なんかだんだん雲行きがアレになってきましたが……。


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▲箱開けてボーゼン。青パーツとクロームメッキのパーツしか入ってないのです。


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▲青いところ以外、全部銀色。


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▲このランナー、白くして欲しかったな……というのは贅沢ってもんなんでしょうか。


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▲ウインカーもストップランプもひとまとめなので全部無色透明ですね。


プラモ作ったことある人はわかると思うんですけど、メッキパーツって接着剤効かないんですよ。
だから接着したい部分だけヤスリとかカッターナイフでちまちまとメッキ層を剥がしてあげなければいけない。
説明書を隅々まで読んでもそうしたことは書かれていないし、複雑に絡み合うペダル類と配管の立体交差的構造も自分で順番を判断して組み立てなければいけない。
「このプラモには複雑な組立て箇所がございますので接着前には仮組みを行ってください。」って書いてあるけど、
それはもう説明書というより謎解きの書なわけですよ。


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▲塗装指示も部分的にしか記載されておらず、細部塗装は箱絵を見ろと書いてあってハードコアがすぎる。


このプラモも根気よくリサーチしながらじっくりと腰を据えて工作し、メッキはキッチンハイターで全部落として高額なメッキ調塗料で塗装し直し、
繊細な塗り分けと注意深い接着工程を経ることで完成まで持っていくことはできると思いますが、
しかしそれが可能なのはツールやマテリアル、それを十全に使えるテクニックを手にしている「持てる者」に限られると思うのです。

FJクルーザーは「持たざる者」に向けてそれらをすべて排除した製品を目指した結果、組みづらいところが散見されるものになっています。
そして、カブは「これくらいの指示でも作れる人は作れるでしょう」というオールドスクールなプラモ像であるために(発売は2009年)、
「ここ、色分けしておけばよかったのに」とか「ここ、はめ込みにしておけば組みたてが簡単なのに」というところが散見されます。

ペルソナの想定は大事だけど、デジタルに「塗装」とか「接着」を完全排除することで、FJクルーザーはその他のプラモとの間に大きなギャップがあるし、
カブのプラモは高度な接着や塗装をあまりにも当たり前に要求するものがゆえに、ユーザーを極度に選ぶものになってしまっていたわけです。
FJクルーザーを「初めてのプラモ」とした人が、今度はふつうのスケールモデルだ!と買ってきたときに、これを「完成」させられる可能性は非常に低いと思います。
つまるところ、接着塗装を完全排除したプラモと、接着塗装がガッツリ必要なプラモに両極化した状態って、ユーザーも二極化するよなぁ、と。



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▲完成したのは真っ青なカブ。これを箱絵のものにしようと思ったとき、そこには膨大な作業が待っています。


接着や塗装はプラモを完成させるひとつの手段にすぎません。
接着によって強度が出たり、小さいパーツも簡単に保持させることができるということを知れば、応用範囲は広くなります。
むやみに色分けをするくらいなら、ここは塗っても塗らなくてもいいんじゃない?という提案ができれば、ユーザーはどちらかを選ぶでしょう。
接着不要、塗装不要のプラモだけを作ってる人が、次に「接着してみよう」「塗装してみようかな」と思うかどうかはわかりませんし、
もし思ったとしてそこに大きなギャップや必要なカロリーがドーンと横たわっていたら、きっと躊躇することでしょう。




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▲次回作は「接着不要、塗装不要」なのに組むだけでこれくらい色分けされるらしいです。クルマより小さいパーツいっぱいあるけど、組みやすいのかしら。


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大事なのは「プラモができた!」という成功体験であってほしいし、そこになにか「自分の作品だ」と思える何かを盛り込む方法はあるでしょうか。
そして、次に作るプラモが手にとった人をがっかりさせない気配りとは?
みなさんは、「架空の初心者」を設定することなく、まっさらな気持ちでプラモに向き合う人がやりたいこと、やりたくないことを想像してみたことはあるでしょうか。
色のついたFJクルーザーと、真っ青なカブの両極端な姿を見て、みなさんにとっての「ちょうどいいプラモ像」を教えてもらいたいなと思った次第です。




by kala-pattar | 2019-02-25 23:56 |  →SPRUE CRAZY