プラモの世界を旅する最強のパスポート、接着剤の話。

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日本で流通してるプラモデルの代名詞といえばガンプラ。色分けされてて、ニッパーで切るだけで組み立てられる。
ガンプラのほとんどが接着剤なしで組み立てられるため、「接着剤を使うプラモは難しい」という先入観、あるよね。

幼少期に手をベタベタにしたり、塗った端から乾燥してなかなかくっつかなかったり、パーツの合わせ目からはみ出たり……。
接着剤を使うプラモにはいい思い出のない大人もいっぱいいるんだと思う。

だから、いま「簡単なプラモ=接着しなくていいプラモ」というのがメーカーの売り文句になっていて、
ユーザーも「接着しないほうが簡単なのか」と思っている。言葉を選ばないで言うと、それって騙されてると思うんだな。

接着剤はプラモの世界を旅するときに、もっともたくさんの国を訪れられる最強のパスポートだ。
いままで発売されてきたプラモは圧倒的に「要接着」のもののほうが多いし、いま売られている接着剤は本当に高性能なのだ。



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ロマン・グロージャンというF1ドライバーがいる。
先日、鈴鹿GPの予選日が台風19号のおかげでヒマになってしまったので、彼はプラモを組むことにしたんだそうだ。

選んだのはタミヤの40年以上前の製品、1/20 グランプリコレクションNO.53 タイレルP34 1977 モナコGP。
6つのタイヤを持つそのフォルムは、F1にあまり興味がない人でも「あー見たことある!」と思うはず。


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グロージャンがプラモフリークなのかどうかはあいにく知らないんだけど、彼はニッパーと接着剤とキットだけを手に入れて、
その日のうちにF1を組み上げて「楽しかったー!」とInstagramにその様子をアップしていた。
塗料なし、特殊な工具やマテリアルなし。ただ、箱に入っているパーツを、接着剤で貼って、ハイ完成。
「それでちゃんとした完成品になるの?」と思う人もいるかもしれないけど、「ちゃんとした完成品」とはなにか。
その日、あなたが、「ああ楽しかった」と思うことが大事で、誰かに「ちゃんとしてるかどうか」を決められることはないのだ。


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グロージャンがあまりに楽しそうにプラモを組み立てている様子をInstagramで眺めていたら、オレも同じ体験をしてみたいと思った。
ハコの中には青、白、黒、グレーとメッキされたパーツ、タイヤやネジやデカールが入っていて、なんだかゴージャス。
たしかに、これなら色を塗らなくてもけっこうな色数と質感の組み合わせが楽しめそうだ。
問題は、40年以上前のプラモを、1日でガガガッと形にする方法だ。


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説明書を見ながらパーツを切り離して、どこがどんなふうに組み合わさっていくのかを想像する。
どこがなんのパーツなのかは、大まかにしかわからない。このマシンがどんな仕組みなのかも知らないから、組立工程が予測できない。
頭、胴体、腕、足と決まっているロボットプラモとはそこが大きく違う。


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もしあなたが「よし、プラモ組んでみようかな」と思って、いま手元に接着剤がないのなら、まず模型店に行こう。
模型店の接着剤コーナーには、信じられないほどの種類の瓶が並んでいる。
「プラモ作る接着剤なんだから1種類でいいだろ!」と思って、いちばん安いのを買う……というのは"オカン"のアクションだ。
安いのに飛びつかず、小銭を3枚ほどを出せばいい。あなたはすばらしく高性能な、昔とは比べ物にならないほど使いやすい接着剤を手にすることができる。


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▲まずはこのどちらかを買おう。これだけで、プラモを作るハードルがググっと下がる。


いまプラモのハードコアユーザーのなかで「これがないと始まらないだろ」とされている接着剤が上の2つ。
パーツに塗るのではなく、あらかじめ合体させたパーツの合わせ目にチョンと流すだけ。
乾燥の待ち時間など必要なく、ほとんどのパーツは15秒ほど指で固定していればガッチリと接着されている。

もしあなたが昔プラモを作ったことがある人なら、この体験は異世界転生モノの主人公みたいに感じるだろう。
幼き日に失敗したプラモを、造作もなくカタチにすることができる。「オレTUEEEEEEE」な能力者の気分になれるはずだ。


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▲ふたつのパーツを合わせた状態で、チョン。たったそれだけ。


20年くらい前までプラモ作ってた人からすると「流し込み接着剤とか昔からあるだろ」という感じかもしれないが、
この2種類はわりと最近開発されたもので、とにかく昔の流し込み接着剤とはワケが違う。
パーツの精度さえしっかりしていれば、合わせてチョン、合わせてチョンとするだけでズイズイと作業が前に進んでいく。
貼っていることそのものが、快楽になるのだ。


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▲両者はほんの少しだけ乾燥タイミングが違う気がするが、内蔵されたハケの穂先で好き嫌いが出る。


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▲パーツをガッチリ指で挟んで、裏の合わせ目にチョン。流したあとはイジらない、力を抜かない。ガッチリ指で挟んだまま、10秒キープ。


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▲パーツ表面に接着剤の痕跡は残らない。はみ出ない。手に付かない。乾燥を待たなくていい。プラモはこんなにテンポよく、美しく作れるのだ。


「色分け済みのプラモ」というのは色を分けるためにパーツが分割してあるので、機能的に分割されている必要がないところまで、別パーツになる。
もしF1マシンのプラモが銀色のところと黒いところとボディカラーのところで全部分割されていたら、組めたもんじゃないだろう。

指でつまめるくらいの複雑な形をしたパーツが、思いもよらぬ角度で「スッ」と噛み合う驚き。
そして、そこに流し込み接着剤をチョンと置いたときに、「ピタッ」と接着され、二度ともとに戻らなくなる興奮。
プラモは切って貼ってどんどん形になっていくだけでも、本当に面白いのだ。


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▲突如現れる「合体したまま指で挟んでいられない形状で割られたパーツ」


当然、流し込み接着剤は面に塗布しても片っ端から乾燥してしまい、上に示したような分割線を強固に接着するのが苦手である。
接着できないことはないのだが、こういう「腕が三本欲しい」というシチュエーションのときには、いわゆる普通のプラモ用接着剤の出番だ。
上に示したMr.セメントかタミヤセメントのどちらかは常備していて間違いない。
ゆっくり作業したいときや、「接着剤を塗ってから置いたほうが楽そうだな」というときは迷わず使おう。


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▲少量塗布して、30秒ほど待ってからパーツ同士を合わせるとキレイに決まることが多い。


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▲こちらもタミヤとGSIクレオスではハケの長さと穂先の処理が少々違う。Mr.セメントのほうが少々粘性が低いのも特徴だ。


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はたしてグロージャンはこの細いパーツを指でつかめたのだろうか、とか。
「穴を開けましょう」という指示があるけど、ピンバイスは持っていたのだろうか……とか。
このパーツを垂直にビシッと貼るには少しだけ集中力がいるな……とか。

ひとりでプラモを作っているはずなのに、まるでグロージャンと対話をしているような気分になってくる。
このプラグコード、ちょっとめんどくさいなぁ。でも、グロージャンもちゃんと付けているからオレもちゃんと付けなきゃ……なんて、
自分が好きで買ってきて、自分の気持ちだけで作っているときには思わないもんね。


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▲さあ、もう少し。


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▲タイヤを付けて、カウルを乗せて、記念撮影。


塗装やデカールの話はいろんなところで読むことができる。
しかし、接着することそのものが楽しい!というのを、まさかF1ドライバーに再認識させられるとは思ってもみなかった。
そして彼の言うとおり、休みの日に楽しく過ごすひとつの方法として、プラモと少しだけ向き合うというのは、とてもステキだ。
ああしなきゃ、こうしなきゃというのは誰かに決められることではない。

どうか、次の休みはあなたのスタイルで、あなたの見てみたいカタチを組み上げてみてほしい。
接着剤ひとつあれば、ガンプラの何十倍もの広さで広がる大きな海に漕ぎ出すことができるのだから。








by kala-pattar | 2019-10-28 21:50 |  →SPRUE CRAZY