日々是超音速:怒号と悶絶の磐越路 その1

思い起こせば9月、片貝まつりへの道程で通った国道49号線の衝撃がその端緒であった。カメラを構えるのすら憚られる程の幽玄な山水にただただ呆れながら、福島から新潟を走るクルマの横には一条のレールが伸びていた。磐越西線である。

「本当にこんなところに列車が来るのだろうか」

失礼ながらそんなことを思っていたが、思いもよらぬところからそれを確認する方法が舞い込んできた。その誘いを申し入れてきたのは毎度おなじみ、s2mの野郎である。俺らの中には「SLに乗りてぇ」という願望は前々からあったものの、どうすれば実現するのかまで考える程俺は鉄分が豊富ではない。「貴婦人」C57180が牽引する磐越西線クリスマストレイン号に乗って郡山から新潟に抜ける。魅力的だ。いつもなら旅については渋る俺でも、奴の申し出には珍しく二つ返事で応えたのだった。

それからというもの、俺はそわそわしながら常にSLの姿を思い浮かべ、卒論に励んだ。師走の空は稀に見る晴天ぶりで、それはすなわち20年ぶりの大寒波を意味していた。

22日、折からの豪雪で原発のポンプがダウン。新潟県は70万世帯規模で停電し、新潟県内の在来線は運転を中止した。迫る出発の時刻。しかし事態は好転しない。電話で何度も会議し、「23日0600の時点で磐越西線に運休区間がある場合は青梅辺りでぶらぶらしよう」というなんともボンヤリとした取り決めをして床に就く。

23日、0530起床。身支度をして6時の運行情報始動時刻を見計らってMacを起動する。運休区間無し。天気は小康状態。夜半にかけて悪化もあるが、昼は持ちこたえそうである。意気揚々と切符を手にして家を出発。駅前のローソンでフィルムを買い、地下鉄に乗り込む。

JRへ乗り換えようとして顔面蒼白になる。乗車券が無い。どう考えても落とすポイントはローソンだけ。しかし戻れば全てのスケジュールが台無しになる。今後の展開も考え、渋々初乗り運賃で0715恵比寿発の湘南新宿ライナーに乗る。新宿でs2mが乗車。グリーン券を買っておいてもらったので快適至極2階席は眺めが良い。道中モデルグラフィックスを二人で覗き込みながらアータラコータラ。こういうことをするのは高校以来だ。ゼータガンダムが欲しい、EF63の重連はやっぱり熱い、プラレールが欲しい。等とバカなことをくっちゃべっているうちに宇都宮に到着。一服付けてからホームの立ち食いソバをたぐる。

黒磯行きの列車が出る。曇天の栃木を黙々と走る列車。今度は週刊プレイボーイを手に取り延々と「俺とオマエは全く女の趣味が重ならない」という7年来のテーゼを再確認する。しょうもないが最高に楽しい。田んぼと畑が広がる中、HOゲージは金持ちのじいちゃんじゃないと無理だ、仲根かすみはふかわりょうだ、早く酒呑みたい、等と相も変わらず妄想を繰り広げているうちに黒磯に到着。交流と直流が切り替わる駅は東北の最南端らしく雪に覆われていた。ちらつく雪の中、うなりを上げて乗客を待つ455系。連結器にはベットリと貼り付いた雪。その姿をホームから数枚捉えていそいそと乗り込む。

日々是超音速:怒号と悶絶の磐越路 その1_b0029315_2291030.jpg郡山行きの列車が出る。車内は満席。我々二人は運転席の真後ろにかぶりつき、風雪の凄まじさを目の当たりにする。黒磯駅を出るや否や100キロに近いスピードで快調に飛ばす。しかし視程は限りなく短い。この調子では郡山など埋まってしまっているに違いない。お互いそう思いながらも口に出せず、壊れたワイパーに手こずる運転手と寂しくて先頭車輛に来てしまった車掌の会話を推測しつつゲタゲタと笑い転げる。停まる駅停まる駅、ホームに一歩踏み出して雪の深さを知る。
s2mにメールが着信したらしく携帯を開く。おもむろに俺の眼前に携帯を差し出すs2m。そこには「磐越西線一部運休」の文字。俺は半笑いで進行方向を見つめ、列車は郡山の貨物ターミナルをすり抜けた。郡山駅はもうすぐ目の前である。
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つづく
by kala-pattar | 2005-12-27 02:14 | 行ってきた | Comments(0)