日々是超音速:怒号と悶絶の磐越路 その2

郡山駅に列車が滑り込む。曇天ながら雲は薄く、降雪はなし。ホームに降り立ち、凛冽な空気を胸いっぱいに吸い込む。跨線橋を上がり、目に飛び込んできたのはLEDを明滅させ絶望的なメッセージをスクロールする行き先表示板であった。

「磐越西線は大雪の影響のため、只今運転を見合わせております。」

愕然としながら降車してきた客が上がってくる階段を二人で黙々と降りる。ホームに停まる真紅の455は会津若松からやってきたらしい。正面には雪だるまと見まごう程べったりと貼り付いた雪。写真を撮るのも忘れ床下を見るとそこには補器類の影も形も無く、ただただ雪の固まり。目を疑う。連結器の周りには膨大な雪が絡み付き、白くなったホースの太さは通常の3倍はあろうかという着雪。この列車がここまで走って来れたことに感嘆しながら立ち尽くし、煙草に火を点ける。撮り鉄とおぼしき銀バッグを提げたお兄さんも三脚片手に煙草を吸う。

俺とs2mは力なく再び跨線橋に向かい、とりあえずここまでの運賃を精算して出札。あてどもなく雪の積もった駅前ロータリーをウロウロする。寒さが一層身にしみる。こうしていてもしょうがないので再び改札に向かい、運転再開を待つ人たちに紛れながらSLが新潟駅を出たか否かを小泉純一郎似の駅員に尋ねる。

「ほぼ定刻でSLは新潟を出た。会津若松以西はなんとか運転している。
 積雪が酷いが除雪をしながら会津若松に向けてSLは少しずつ走っている。」

なんたるドラマか。そんなロマンがあるのか。先程の車輛を見るに、イベント列車であるSLなんぞ走らせている場合ではない。豪雪の中、除雪車にエスコートされながらジリジリと進むSLの姿が脳裏に浮かぶ。しかし普通に考えてそんなことは「ありえない」。二人同時に放った言葉は帰京を決心するのに充分な力を持っていた。

しかしだ。SLは今も走っている。途中でつっかえて全ての列車を止める訳にはいくまい。会津若松までは振替輸送のバスが出ている。C57180は明日の朝には新潟に戻っていなければならない。これらの条件を鑑みてこの場にとどまることにした。すかさず会津若松駅に電話を入れ、現状を尋ねる。倒木と積雪が行く手を阻み、通常の運転もままならない。今日の運転はいつ何が起きるか分からない。期待しないで欲しいが、でもSLはなんとか走らせるつもりでいる。こんな言葉を聞いて帰る訳にはいかない。

日々是超音速:怒号と悶絶の磐越路 その2_b0029315_1443358.jpgみどりの窓口で新潟経由東京行きの普通乗車券を購入する。行き先をやたらと心配してくれるおねえさんに「どうしても新潟行きが欲しいんだ。無理言ってごめんね」「いえいえ、そんなことないですよ」と、なんとか発券してもらう。早朝からの行動、郡山での足止めに空腹は激しく、駅ビルのロコモコに駆け込んでオムライスをかきこむ。コーヒーが胃にしみる。ぐったりしながら再び改札を見ると人だかりはさらに膨れ上がり、駅員に詰め寄る人もちらほら。松居直美似の新入社員とおぼしき研修生が必死でお客さんをなだめている。

「振替輸送のバスはいつこちらに到着するか分かりません。」
「SL?ここからバスだと間に合わないかもしれない。」

駅員の言葉に裏付けは無い。人々は殺気立っている。何もかもが混沌とした中、二人はただただくだらない話をしながら郡山駅の中をうろうろするだけであった。
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つづく
by kala-pattar | 2005-12-28 01:40 | 行ってきた