日々是超音速:怒号と悶絶の磐越路 その3

バスは来ない。雪が降り始める。気温はさほど低くないのだろうが視界が白いために寒いような気がして思わず「寒い」を連呼する。しびれを切らし高速バス乗り場へ。運賃は会津若松まで一人1000円。しかし1時間後の便まで満席だと告げられる。冗談じゃない。それなら振替輸送のバスを待ってでもタダ乗りしようと再び駅に戻るとそこには行列が。黄色いJRのヘルッメットをかぶったおじさんが大声で叫ぶ。

「猪苗代駅経由会津若松行きです!」

並んでいる人は多種多彩。ギャル・撮り鉄・乗り鉄・山ヤ・ボーダー・リーマン・不倫旅行風…。その列に紛れ込んで豪雪の中バスターミナルへゾロゾロと向かう。s2mがぼそりとつぶやく。「まるでダンケルク撤退だな」

無情にも満席のバスが次々と発車し、我々はしばし待たされた後やってきたバスに乗り込んだ。「ここでは寒いでしょうから駅に戻って待った方がいいですよ、あ!来た!来ましたよ!よかったあああああ」と一人でテンパりまくっていた駅員さんの表情が忘れられない。バスは一路猪苗代へ。雪は深く、揺れが激しい。何を話していたかも忘れて眠りこける。三半規管への激しい入力で目覚める。今のは尋常じゃなかった、と隣のs2mを見やると「今のは30度くらい傾いた。死んだ。」と恐ろしいことを言う。そこは既に会津若松駅であった。
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これでもかと言わんばかりに積もる雪、雪、雪。しばし子供のようにその感触を楽しみ、そして駅に入る。行き先掲示板には「SLクリスマストレイン号」の表示。良かった。まだ運休ではない。駅員が集まった人たちに大声でアナウンスする。

「SLは喜多方まで来ております。しかしその前に起きた倒木で足止めを喰らい、タンクの水を使い果たしました。喜多方には給水設備が無いためこちらから牽引車を持って行き、会津若松まで牽引した後、給水を施して新潟への運転を実施します。」

鳥肌が立った。何がこいつらを動かしているんだ。会津若松まで来て本当に良かった。へとへとになってDDに牽かれ会津若松にやってくるSL。給水を行って釜に火を入れ、再び蒸気を吐くSL。そして暗い阿賀野川に沿って新潟へと進むSL。こんなにドラマチックな展開があるだろうか。待つよ。何時間でも待つ。必ず運行してくれ。
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しかし駅前には特に見るべきものもなく、第一あまりの雪に動く気すら起きない。ひとまず駅の手打ちそば屋に入り、酒を飲むことにする。米焼酎「玄武」におでんと鶏の唐揚げを頼む。突き出しで出てきたニシンの骨揚げがやたらと旨く、酒が進む。隣の卓には美人な奥さんと何とも言えない風体の旦那様、そしてカワイイ息子。テーブルの上にはトーマスと総武線のミニチュア。ああきっとこの人たちもSLなんだろうなぁ、と話しかけてみる。無邪気な子供とシリアスにSLを求めてここまで来てしまった野郎二人のコントラストを夫婦が笑う。学生さんは元気があっていいわね、って微笑まれるとなんだか恥ずかしいが、しかしこれも悪くねーな、等と思っているうちに向かいのs2mは速攻で酔っぱらっていた。仰天。

日はとっぷりと暮れ、時刻は既に5時を回っている。今頃SLは喜多方を出ただろうか。それともまだ連結に手間取っているのだろうか。何にせよ待っていれば奴はここまで来る。それまで呑んでいようじゃないか。

つづく
by kala-pattar | 2005-12-29 02:02 | 行ってきた