日々是超音速:怒号と悶絶の磐越路 その6
2005年 12月 30日
ふと目が覚めると列車は山間部を抜け、越後平野に入ったようだった。時折照らし出される対岸の山の威容に驚かされる。しばし無言で車窓に見入り、列車は新津駅に着いた。身を切るような寒さ。時刻は2200を少し回っていた。新潟に出る気力は残っておらず、体を温めるためにも酒が欲しかった。改札を出る。サンタクロース姿のお姉さん3人組がSLの紙袋を持って震えていた。キャンペーンに狩り出された社員だろうか。跨線橋から見る新津駅は広大で、列車のいないホームがただただ伸びていた。 駅前のアーケードをとぼとぼと歩く。昨日の大停電の面影はないが、人は殆どいない。キャバレーとスナックの光が煌煌と道路を照らす。
「新幹線」
「大統領」
最高に魅力的な店の名前に顔がほころぶ。キャッチのおっさんも全く元気がない。少し歩いたところにあった「ワイワイBOX」なる居酒屋に入る。椎名林檎が店内に響く。作業着を来たお客さんが6人程。客は他に俺らだけ。座敷に座り生ビールと刺身を頼む。鶏皮餃子のポン酢がけが旨い。店員のお姉ちゃんは20才くらいだろうか。s2m共々瞬時に恋に落ちた。めちゃんこかわいい。とても魅力的だ。うん。 「昨日はここも停電?」
「うん、真っ暗だったんだけど予約してた宴会のお客さんが『閉めてる場合じゃねえだろ!』って来たからロウソク付けて営業しました。」
「うわー大変」
「大変でした。」(ニコッ)
(ズキューーーーン)
バカ二人は結局12時近くまでチンタラ酒を傾け、勘定を頼んだ。とっても安かった。
「どこから来たんですか?」
「東京」
「こんなところに何しに?」
「SLに乗ろうと思って。乗れなかったんだけどね。」
「SLって…」
「うん、SL」
「あの黒い奴ですか?」
「そうそう。」「そうそう。」
「で、今日はどこに?」
「今からムーンライトで帰るよ。」
「走ってるんですか?」
「うん、大丈夫みたい。」
「あたし明日東京に行くんです。」
「新幹線?」
「ううん、あたしもムーンライトで。」
「今日じゃないのかー!」
「明日なんですよー。また来てくださいね!」
「ぜってー来る。」「来る来る。マジで。」
「ありがとうございましたー」
「そんじゃ。」
店を出た瞬間バカ男二人はゲタゲタと笑い転げながら「『黒いの』って」「ドムかよ」とこれまたバカな事をいいながら駅へ急いだ。目は二人ともハートのまんまだったが。 新津駅。時刻は0時を回り、ホントにしょうもないクリスマスイブがやってきた。ついでに485がヘッドライトを光らせて俺たちを待っていた。遅れ気味の磐越西線を待って走り出すムーンライトえちご。時折激しく突き上げる縦揺れにビクビクしながらリクライニングの最適な位置を探る。長岡を過ぎる。どうやら風邪を引いたらしい。鼻水と喉の痛みで頭が朦朧とする中、あれこれ考える。どうせ落としたチケットはローソンにある。SLはまたいつか乗ってやる。目が覚めたらそこはきっと東京で、熱が40度くらいあるに違いない。うんうん。そうこうしているうちに俺は深い眠りについていた。
降り立った新宿のホームは寒くて寒くて、でも雪は積もっていなかった。案の定切符はローソンにあって、案の定熱は40度近かった。家の玄関にたどり着いて気づく。背負っているザックが異様に重い。ああ、玄武がまだ残ってた。呑めるのは風邪が治ってからだな。窓の外が明るくなってきた。もう何も考える気が起きない。服を着たまま、俺は布団にもぐり込んだ。
完。
「新幹線」
「大統領」
最高に魅力的な店の名前に顔がほころぶ。キャッチのおっさんも全く元気がない。少し歩いたところにあった「ワイワイBOX」なる居酒屋に入る。椎名林檎が店内に響く。作業着を来たお客さんが6人程。客は他に俺らだけ。座敷に座り生ビールと刺身を頼む。鶏皮餃子のポン酢がけが旨い。店員のお姉ちゃんは20才くらいだろうか。s2m共々瞬時に恋に落ちた。めちゃんこかわいい。とても魅力的だ。うん。
「うん、真っ暗だったんだけど予約してた宴会のお客さんが『閉めてる場合じゃねえだろ!』って来たからロウソク付けて営業しました。」
「うわー大変」
「大変でした。」(ニコッ)
(ズキューーーーン)
バカ二人は結局12時近くまでチンタラ酒を傾け、勘定を頼んだ。とっても安かった。
「どこから来たんですか?」
「東京」
「こんなところに何しに?」
「SLに乗ろうと思って。乗れなかったんだけどね。」
「SLって…」
「うん、SL」
「あの黒い奴ですか?」
「そうそう。」「そうそう。」
「で、今日はどこに?」
「今からムーンライトで帰るよ。」
「走ってるんですか?」
「うん、大丈夫みたい。」
「あたし明日東京に行くんです。」
「新幹線?」
「ううん、あたしもムーンライトで。」
「今日じゃないのかー!」
「明日なんですよー。また来てくださいね!」
「ぜってー来る。」「来る来る。マジで。」
「ありがとうございましたー」
「そんじゃ。」
店を出た瞬間バカ男二人はゲタゲタと笑い転げながら「『黒いの』って」「ドムかよ」とこれまたバカな事をいいながら駅へ急いだ。目は二人ともハートのまんまだったが。
降り立った新宿のホームは寒くて寒くて、でも雪は積もっていなかった。案の定切符はローソンにあって、案の定熱は40度近かった。家の玄関にたどり着いて気づく。背負っているザックが異様に重い。ああ、玄武がまだ残ってた。呑めるのは風邪が治ってからだな。窓の外が明るくなってきた。もう何も考える気が起きない。服を着たまま、俺は布団にもぐり込んだ。
完。
by kala-pattar
| 2005-12-30 20:24
| 行ってきた